【主張】生活保護法見直し 医療機関への指導強化は的外れ

公開日 2013年04月15日

 厚労省はこれまで生活保護の「医療扶助」適正化に向け、レセプト審査や保護世帯への受診指導を重点としてきたが、今後は医療機関に対する指導・監査を強化する。特に請求内容に疑義がある場合は個別指導を行う方針である。さらに改正法案では、生保医療で不正を行った場合の生保指定医療機関の取り消し要件も盛り込まれている。

 「医療扶助」においては入院費が6割を占め、東京都では、2011年度は生活保護の指導を72の病院に行い、指導対象は病院であった。しかし、2012年度は指導強化の方針に伴い、診療所も指導対象となった。診療所から寄せられた情報によれば2013年3月下旬に指導が行われた。

 この事例では、1)指導の通知は指導実施日の50日前、2)平日の午後に3時間30分の指導、3)診療所に指導官が来所して指導をするため、10人ほど入る広さの場所を求められる、4)準備資料は医療保険の個別指導とほぼ同じであるが、指導対象のカルテは当日指導官が来所してから指定される、5)生活保護に関わる書類(医療・給付要否意見書、医療券等)の準備――が求められた。

 指導調査事項は、生活保護医療の事務体制、診療の実施体制、診療報酬の請求状況とされている。指導を受けた医療機関の話では、医療保険の個別指導と同じようであるが、医療要否意見書など生活保護事務に点検が加わるとのことである。また指導担当課は東京都福祉保健局指導監査部指導第3課の指定医療機関指導係で、係りは異なるが国保の指導担当課が所管している。

 これに加え、厚労省が何度か指導の通知を出している。そのなかで指導対象医療機関の選定時に考慮する事項として、例えば、1)請求全体に占める生活保護の割合が高い、2)他のレセプトと比べて生活保護のレセプト1件当たりの点数が高い、3)県外受診者の割合が高い――などが列挙されている。また生活保護患者等から重要な通報があった場合には、該当医療機関の選定を原則優先するとしている。

 さらに指定医療機関医療担当規程に基づき、「後発品の使用」を考慮しなければならないとされた。後発品の処方実績が相当程度低調な場合には、低い理由について医療機関から意見聴取して後発品の使用促進に協力を求めるとしている。

 すべての後発品が先発品と同等の効能効果を有してはおらず、効力が低い後発品が選ばれた場合、治療期間が長引き逆に医療費は高くなる恐れがある。まず後発品の品質向上、安定化を図るべきだろう。

 精神科での処方薬については、効能効果に個人差が大きく、後発品への変更で効果が出なくなる恐れがあるとの指摘が専門医から出されている。機械的な後発品への誘導は、患者の病状悪化につながりかねず、生保を受ける多くの精神疾患患者への影響が懸念される。

 生活保護費を圧縮するには国民の生活を安定させ、要保護者を減少させればよいのだ。物価の引き下げ率まで駆使して生活扶助等を引き下げるなど本末転倒の愚策ではないか。指導対象医療機関を増やし、人的資源や資金を追加投入することも的外れと言わざるを得ない。

 また、指導対象の選定には生保の患者数、後発薬の使用頻度についてレセプトデータが使用されるが、強い違和感を覚える。診療報酬や請求事務について、「誤り」を誘発する仕組みを簡素化し、算定要件や請求方法を周知徹底させるべきである。それでも指導が必要な医療機関に限り、指導すべきであろう。

 非保護者と保護者の医療内容に差があってはならない。後発品の強要や指導強化を、生活保護「医療扶助」削減の手段として用いる国の方針には断固反対する。

(『東京保険医新聞』2013年4月15日号掲載)