患者側弁護士に学ぶ医事紛争対策――城南支部例会に17人が参加(城南)

公開日 2014年08月25日

協会城南支部は6月24日、医療関係の事案を多く担当する大森夏織弁護士(東京南部法律事務所・大田区)を講師に招いて支部例会を開催し、17人が参加した。

今回のテーマは、「患者側弁護士の視点からみる医療事故・医療紛争への対策」。

患者(遺族)が弁護士に依頼したからといって、すべてが裁判になるわけではない。

徹底した資料収集と分析、医療機関との対話の結果、法的な責任追及が難しい(無責)と判断されるのは6~7割。責任がある(有責)と判断され、示談やADR(裁判外紛争解決手続)で解決するのが2割で、解決せずに訴訟へ発展するのは全体の1割にとどまる。

患者側弁護士に学ぶ医事紛争対策――城南支部例会に17人が参加(城南)画像

裁判外の紛争解決手段が増えたことや、医療裁判は一般に比べて患者側の勝訴率が低いこともあり、訴訟件数は年々減っている。

一方で、大森弁護士は「医療界は他の職種に比べて行政処分が甘すぎる一面もある」とも指摘した。

紛争が起きにくい診療とは

イ 病気等の名前・症状
表 インフォームド・コンセントの内容
ロ 予定する治療等の内容とその採用理由
ハ 治療等のメリット(改善の見込み/効果)、
   デメリット(危険性*/副作用)
  * 危険性には、死亡率後遺症の発生率も含む
ニ 治療しない場合の見通し
ホ 他に選択可能な治療法がある場合の内容利害得失

「医療事故」は単純ミスのほか、施設内での転倒、集団感染、副作用・合併症など多岐にわたる。

特に「不作為」―すなわち「なすべき治療が実施されたか」については、医療側と患者側で見解が異なり、しばしば対立構造になりがちである。

こうした紛争を起こりにくくさせる環境として大森弁護士は、1)医師・コメディカルが日常的に誠実な人間関係を築く姿勢を見せていること、2)診察・治療について一定水準と専門性を保ち、インフォームド・コンセントを尽くしていること、3)仮に事故が発生しても情報を共有し説明責任を尽くすことがポイントだと指摘した。

の下線部すべてを伝えていない場合はインフォームド・コンセントを尽くしたとは言えない」との高裁見解もあり、医療側も説明不足とならないよう、日頃の心がけが重要だ。

クレーム対応と応召義務

昨今、協会には患者からの理不尽なクレームや謝罪要求に関する相談も多い。

インフォームド・コンセントを尽くすことを大前提としつつも、「医師と患者の関係は準委任契約。民法や判例が医師に求めるのは『ベストを尽くす義務』であって『良い結果を与える義務』ではない」と大森弁護士。

医師の応召義務についても、「“正当な事由がなければ”診療を拒んではならないのであって、患者の希望や病態を踏まえたうえで、例えば悪質な医療費の踏み倒しや大声で暴れるなどの場合は診療を断ることもやむを得ない」と述べた。

参加者からは、「医療法改正に伴い医療事故調査の導入が準備されているが、診療所でも何か事故があった場合、調査委員会をつくらなければならないのか。対応できず不安だ」といった声や、「院内での転倒事故についてはどこまで責任が発生するのか」「医師が時間外等に飲酒している状況で診察を求められても断れないのか」といった質問が出され、活発に議論が行われた。

(『東京保険医新聞』2014年8月25日号掲載)