産科医療補償制度 現場無視の「私的判決」全科への波及を懸念

公開日 2013年11月25日

勤務医委員会は11月2日、「産科医療補償制度の現状と問題点」をテーマに講演会を開催。池下レディース・チャイルドクリニック院長・池下久弥先生が講演し、16人が参加した。

池下先生は冒頭、「産科医療の崩壊を防ぐべく創設された制度であるにも関わらず、産科医を苦しめる制度になっている」と訴えた。

日本病院評価機構(以下「機構」)が運営する産科医療補償制度だが、医師に一方的に不利な民間機関による「私的裁判」制度のようになっていると指摘。医師が機構に提出したカルテをもとに作成される報告書が、産科医会が発表している「ガイドライン」を絶対視しており、現場の医師が患者の状態・状況に応じて下す判断を無視した「判決」になっていると述べた。

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また、報告書の作成に関して、分析結果への異議申し立てを認めず、結果はすべて該当案件が特定できる形で公表する制度になっていると語った。

池下先生は「ガイドライン」について「医療を行う際の目安に過ぎないものが、あたかも順守すべきルールであるかのように扱われ、またその医療行為が脳性まひ発症と関係している、いないに関わらず、ガイドライン通りでないことを『誤っている』『劣っている』『基準から逸脱している』などの文言で非難」しており、分娩医療機関の印象を著しく悪化させ、紛争を誘発するものであると指摘した。

また、この制度に加入していないと診療報酬の「ハイリスク妊娠管理加算」及び「ハイリスク分娩管理加算」が算定できないことに触れて、「民間の制度に加入しなければ、ハイリスクであっても公的医療保険制度の給付が受けられないのは不当である」と述べた。

その他、制度設計の不備から800億円の余剰金が生まれ、その余剰金や運用益をめぐって、社会保険審議会医療保険部会でも「保険会社を儲けさせる制度」と指摘されたこと等についても言及した。

最後に、「厚労省は『医療事故調査制度の創設』を計画し、診療所を含むすべての医療機関に「診療に関連した予期しない死亡」の届出を義務化しようとしている」、「ここでは患者からの訴えに基づき、第三者委員会による事故調査とその報告書作成が計画されている」と指摘し、この問題が産科だけの問題ではないと警鐘を鳴らした。

(『東京保険医新聞』2013年11月25日号掲載)