【解説】介護療養型60床病院年間1,300万円の減収!!

公開日 2015年05月05日

今次介護報酬改定は、介護職員処遇改善加算などを差し引くとマイナス4・48%という過去最大の改定率となった。各報酬でみても基本サービス費は軒並み引き下げとなり、事業継続はもとより、事業所そのものの存続さえ不可能になる恐れがある。

2018年3月末で廃止の方針が変わっていない「介護療養病床」は、新たに“機能強化型”の区分が新設されたものの、「医師が医学的見地に基づき回復の見込みがないと診断された患者」など、およそ実態にそぐわない患者像の割合が要件となった。基本サービス費の引き下げによる減収にとどまらず、「存続か、転換か、廃止か」の選択を迫られる状況に追い込まれている。

23区内で開業している介護療養病床・多床室60床のT病院(看護6対1、介護4対1)の2014年4月のレセプトを新報酬と比較したのが表1だ。

新設された「機能強化型A」を採用せず、また、従前どおり介護職員処遇改善加算Ⅱ(旧Ⅰ)を算定した①の場合、基本報酬が59から69単位、約5.3%も引き下げられた結果、月額110万円以上のマイナスとなった。年間1,300万円以上の減収だ。

②の「機能強化型A」を選択しても介護職員処遇改善加算Ⅱ(旧Ⅰ)では月額7万3,000円の減となる。

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表1図

【備考】

〇地域単価 1級地(東京23区 1単位単価:改定前 10.81円、改定後 10.90円)
〇入院患者のうち、要介護4、5が95%以上を占めている。 (要介護3:4.6% 要介護4:33.4% 要介護5:62.0%)
〇今次改定で新設された療養機能強化型A(入院患者のうち、重篤な身体疾患を有するものの割合が一定以上である等の要件を満たす病院)を選択した場合と、その他(療養機能強化型A及びB以外)の病院を選択した場合を、2014年4月のレセプトを新報酬で置き換えて比較
〇介護職員処遇改善加算Ⅰ(新設)、Ⅱ(旧Ⅰ)をそれぞれ算定した場合を比較
Ⅰ:サービス費+各種加算+特定診療費の総単位数に20/1000を乗じて算出した単位数を加算
<算定要件> 次の①②を共に満たすこと
①就業規則、給与規定等を書面をもって作成し、全職員に周知
②介護職員の資質向上の支援計画作成と計画に係る研修実施または研修機会の確保
Ⅱ:サービス費+各種加算+特定診療費の総単位数に11/1000を乗じて算出した単位数を加算
<算定要件> 左の①②のどちらかを満たしていること

※特定診療費の改定はない

表2図


「機能強化型A」と介護職員処遇改善加算Ⅰをあわせて算定した③の場合で、初めて増収となるが、月額にしてわずか14万円ばかりとなった(表2)。

介護職員処遇改善加算ⅠはⅡに比べて約2倍の報酬を算定することができるが、同加算Ⅰと「強化型」を選択して、ようやく増収となることをみても、基本報酬の引き下げは介護療養病床の病院に深刻な打撃を与えている。

表3図

新設の「機能強化型」も「介護職員処遇改善加算Ⅰ」も算定要件はハードルが高い(表3)。T病院はかろうじて「機能強化型A」を選択することができたが、新たに設けられた算定要件のうち、「『重篤な患者等』の割合50%以上」が課題だったという。

表1 介護報酬改定影響試算 今回の介護報酬マイナス改定のなかで、厚労省は介護療養病床について「機能強化型」以外を「その他の病院」と表現している。

厚労省は「介護療養病床を2018年3月末までに廃止するという方針に変わりはない」と繰り返し表明していることから、今回新設の「機能強化型」を選択できなかった「その他病院」の介護療養型病院を淘汰しようとしているのではないか、との憶測も可能だ。

しかし、T病院の例を挙げるまでもなく、要介護4、5の患者が9割以上を占める介護療養型病院が数多くある。

全国に約34万床ある療養病床のうち、7万2千床が介護療養病床だ。これらの病床をなくすことはベッドでの療養を余儀なくされている多くの患者を、行き場のない地域に放り出すことに他ならない。

介護報酬の引き下げは、職員処遇の低下をもたらし、事業の縮小、施設の閉鎖などを多発させ、介護難民の増加に拍車をかける。

さらに介護療養病床の廃止は多くの入院患者を地域に「漂流」させる事態を招くことは明らかだ。特に東京は高齢者のみの世帯や独居高齢者が多い。そのような都市部で「在宅死」を重視する政府の政策は破綻するのは明らかである。

地域医療、在宅医療を支える介護療養型病床をなくしてはならない。

(『東京保険医新聞』2015年5月5・15日合併号掲載)