保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

生活保護費の削減と制度改悪に抗議するとともに、国民生活を底上げする社会保障制度を求める

公開日 2013年01月30日

2013年1月30日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
厚生労働大臣 田村 憲久 殿
財務大臣 麻生 太郎 殿

東京保険医協会
政策調査部長 須田 昭夫

 

 政府は2013年度予算案において、日本の社会保障制度の土台である生活保護費を削減し、「生活扶助費」の基準額等を引き下げて、3年間で段階的に約670億円削ることを1月29日の閣議で決定した。さらに、年末一時扶助を70億円減らすとともに、「医療扶助」では後発医薬品の使用を原則化するなどして年間450億円の削減を見込んでいる。これは社会保障費を毎年2,000億円ずつ削って他の歳出にまわした小泉「改革」の再来であり、断じて認めることができない。

 社会保障と税の一体改革を進めるために、社会保障制度改革推進法が昨年8月、成立した。同法は社会保障制度に対する国の責務を放棄し、専ら国民の自助・共助に委ねる制度に変質させ、「重点化・効率化」の名で、いっそうの給付抑制を行うものだ。その筆頭に挙げられたのが「生活保護制度の見直し」である。自民党は先の総選挙公約で生活保護費の1割削減を掲げ、生活保護の医療給付を大幅にカットして自己負担を導入することや、受診する医療機関を指定し、ジェネリック医薬品使用の義務化を求めた。生活保護の受給者が増え、戦後最大の230万人を超えたことを理由に挙げている。

 しかし、生活保護を削らなければならないほど日本の生活保護者は多くない。国民の中で生活保護を受けている人の割合は、ドイツ9.7%、フランス5.7%、イギリス9.27%、スウェーデン4.5%に対して、日本はわずか1.6%である。また、収入が少なく生活保護を必要とする人のうち、実際に支給を受けている人の割合(補足率)は、ドイツ64.6%、フランス91.6%、イギリス47~90%、スウェーデン82%に対して、日本は15~20%にすぎない。先進諸外国と比べて日本に生活保護受給者が少ないのは、受給すべき人が見捨てられているのだ(日本弁護士連合会「今、日本の生活保護制度はどうなっているの?」)

 もちろん、生活保護の不正受給は厳しく対処されなければならないが、不正と言い立てられる受給額の割合は0.4%であり、事例もごく少数である。まず優先して取り組むべきことは、GDP比でOECD諸国平均の7分の1しかない日本の生活保護費を引き上げて、数百万人に及ぶ要保護者に手を差し伸べることが必要だ。

 また「扶養しない理由」について、親族に説明義務を課そうとしているのも問題である(社会保障審議会「生活困窮者支援特別部会」1/25報告)。親族に知られたり、迷惑をかけたりしたくないという理由で保護申請をためらう人が多い中で、生活保護への恥の意識を助長させて、制度を利用させない仕組みだからだ。そもそも扶養義務者からの扶養は生活保護を受給する前提になっていない。近親者に扶養義務を機械的に課せば、人間関係が壊れたり、共倒れになってしまう恐れもあり、夫婦間暴力から逃れている人が受給できなくなるなどの問題も出てくる。

 実際、近親者の扶養義務を強化している韓国では、韓国型「共通番号制」である「社会福祉統合管理網」が2010年から実施されたため、何十年も会っていない親への扶養義務が生じたり、扶養義務者の存在が把握されたりして、受給者が10万人も減少したという。このため保護を打ち切られた高齢者の自殺が相次いで社会問題になり、扶養義務者基準の全面改正や廃止を求める声が広がっているのだ。

 さらに今回の生活保護の改悪では、生活保護費の2分の1を占める医療扶助を制限する目的で、生活保護者に医療費の窓口負担を導入しようとしたことは見逃せない。医療扶助は受給世帯の8割が利用しており、利用者の多くは難病者や障害者、高齢者である。経済的に受診できなかった患者が生活保護を受けることではじめて、通院や入院が可能になるという状況がある。今回、導入自体は見送られたが、受診を可能にする最後の砦である医療扶助に患者負担を持ち込むことは到底容認できるものではない。

 生活保護の水準を切り下げ、扶養義務を機械的に強化して、受給申請の壁を今以上に高くすれば「餓死」「孤立死」をさらに頻発させるのは明らかだ。

 よって、生活保護費の予算削減と生活保護基準引き下げに抗議するとともに、その撤回を要求する。そして、増え続ける生活困窮者に手を差し伸べ、現行の生活保護基準以上の生活を全ての国民に保障して、国民生活を底上げできるような社会保障制度を求めるものである。

以上

生活保護費の削減と制度改悪に抗議するとともに、 国民生活を底上げする社会保障制度を求める[PDF:149KB]

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