「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(案)に対する意見

公開日 2013年06月15日

2013年6月15日
東京保険医協会
会長 拝殿 清名

2.情報提供・共有(リスクコミュニケーション)に関するガイドライン

(1) 発熱時の受診方法などをテレビニュース前にテロップで流すなど、住民への周知を万全に行うこと。

(2) 医療を受ける必要が生じた場合は、資格証明書でも医療保険の自己負担額で受診できることを、住民へ周知徹底すること。

3.水際対策のガイドライン

(1) 36ページに記述されている通り、「空港・港での水際対策によって一部の患者を発見したとしても、国内への侵入遅延の効果には限界がある」ことから、水際対策に過度に期待・注力してはいけない。必要以上に医療関係者を停留地に派遣せず、国内発生以降の来るべき爆発的な患者増に備えることを中心に置くべきである。

(2) 43ページ「検疫実施空港・港の集約」に記載される5空港・4海港はいずれも人の集まる都市部である。検疫を実施していたとしても侵入は免れず、かえって爆発的な感染を引き起こすおそれがあり、集約すべきではない。

4.予防・まん延のガイドライン

 新型インフルエンザの被害想定の上限値は、受診患者数2,500万人、入院患者数200万人、死亡患者数64万人という極めて大規模なものとされている。1918年に発生したスペインかぜからの推計であるが、当時と現在の我が国の国民の健康状態、衛生状況及び医療環境は大きく様変わりしており、妥当な被害想定ではないという意見もある。

 外出する主な理由は通勤、通学、食料品や日用品の買い物であり、これらを完全に制限することは現実的に不可能である。そのような中、外出自粛要請や施設の使用制限規定は憲法21条第1項に規定される集会の自由を侵害する恐れがある。外出自粛要請・施設の使用制限などの対策は経済活動にも多大な影響を与えるため、施設管理者の同意を前提とする慎重な運用を求めるものである。

5.予防接種に関するガイドライン

 現行の10ccバイアルでは、残量を廃棄せざるを得ず、非効率である。無駄にならないよう、1cc、5ccの使いきり可能なタイプのバイアルを作成すること。

6.医療体制に関するガイドライン

(1) 国内発生期、国内感染期にかけて、患者の急増が予想されることから、国民に対する相談窓口や患者の振り分け作業に当たる保健所の機能を早急に充実するとともに、重病患者の搬送手段と入院施設を確保すること。

(2) 特に現下の病床数削減政策を中止し、余裕のある地域病床数、人員が配置できるようにすること。

(3) 新型インフルエンザ等が大流行した時、死因の大部分は肺炎球菌性肺炎による呼吸困難である。平時から有事に備える肺炎球菌ワクチンの接種を拡充すること。

(4) 新型インフルエンザの予防や治療にあたっては、公的医療保険に加入していないものであっても、必要な予防や治療が公費によって行われるようにすること。

(5) 都道府県の責任において感染症指定医療機関の病床数を増やすこと。

(6) 重症患者に入院の措置を行う場合に、どの医療機関にも空きベッドがないということが起こらないよう、ベッドの空き状況などの情報提供を行う体制を構築すること。

(7) 感染症指定以外の医療機関において隔離病棟として取り扱う場合の医療機関の届出等取り扱いの簡略化を図ること。

(8) 病床数が不足する事態となった場合、病室定員数にかかわらず入院を認めること。しかし、医療施設の食堂やリハビリ室、ロビーなどの共有空間を活用して臨時の病床を確保することは肺炎球菌性肺炎に感染する機会を増大させて死亡者数を著しく増加させるおそれがある。さらにインフルエンザ患者は正常な換気が保たれた小さな部屋に分散して収容する必要がある。よって、これらを可能にする施設を確保しておかねばならない。

(9) 医師・看護師等の「欠員」状況の発生等々、施設・人員・運営基準についても、医療が継続できるように都道府県は柔軟な対応を図ること。超長時間過重労働に依存した日本の医療体制を見直すこと。消防、警察、海上保安庁などが独立採算を要求されることはない。病院に厳しい独立採算を要求することはあやまりであることに気づくべきである。

(10) 国内感染期には、行政から供給される抗インフルエンザ薬の投与を含め、原則として全医療施設が、新型インフルエンザの治療に取り組むことができる体制を構築すること。

(11) 医療従事者が新型インフルエンザに感染・発症、または感染・発症によって休業した場合等に対して、診療の継続等への支援や医療従事者への補償を行なうこと。

(12) 国内感染期における医療従事者やライフライン従事者を確保するため、有事における保育体制を確立すること。

(13) 医療従事者を感染から守るPPE(個人防護用具)と予防投与用の抗インフルエンザウイルス薬の備蓄は、医療機関に任せるのではなく、行政が必要量を確保し、発生期から大流行期、小康期の全期にわたって医療機関に支給する体制を整えること

7.抗インフルエンザウイルス薬に関するガイドライン

(1) 患者同居者、濃厚接触者等に対する抗インフルエンザウイルス薬の予防投与は公費で行うこと。

(2) 新型インフルエンザ等に対して抗インフルエンザウイルス薬が有効であることが認められる場合には、地域感染期以降も予防投与を確実に認めること。

以上

「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(案)に対する意見[PDF:181KB]