「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見

公開日 2013年09月17日

2013年9月17日

東京保険医協会
会長 拝殿 清名

 当協会は、特定秘密保護法(案)は国民の知る権利などの人権を大きく制限する法律案であると認識している。以下に当協会の意見を述べる。

秘密の指定

 【概要1の(1)】では、行政機関の長による特定秘密の指定等に関して記されているが、概すると、行政機関の長が「安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるために秘匿することが必要」と判断すればどのような情報でも特定秘密として指定することが可能とする措置である。別表をみても特定秘密に該当しうる事項が広範で曖昧であるとともに、特定秘密の有効期間(上限5年)は更新可能とされており、有効期間はあってないようなものである。一方国民には情報が公開されないために秘匿の必要性を判断することは出来ず、個人や団体が収集・保管する様々な情報について「国の安全上秘匿する必要がある」と認めて際限なく指定が行われることは必至である。

 国民が注目する福島第一原発の状況、汚染水に関する情報等も国の安全を脅かしかねない情報ではあるが、同時に即時に国民がその情報を得られなければ放射能被害から身を守るための手段を講じる判断基準を失い、健康を害する等のおそれがある。国民にとって重大な情報は公開することが必要であることから、単に「安全保障への支障」だけを基準に行政機関の長の判断で特定秘密の指定を行うことは論外である。

その他

 【概要3の(1)】では国民の基本的人権を制限しないよう拡張解釈を行わない旨が記されているが、拡張解釈をせずとも充分に権利を侵害しうる。例えば【概要1の(2)のエ】では、日本の「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれが無い限り特定秘密を提供することが出来る」としている。特定秘密として指定されてしまえば、国会議員ですらその情報を取得することは困難となる。国会議員は選挙で選ばれた国民の代表であるが、彼らが審議のために必要とする情報が国の安全に支障を来す特定秘密として取得不可能であるとすれば、国政調査権を侵害し、ひいては国民の知る権利を否定することとなる。

罰則

 また【概要2の(2)】では特定秘密の取得の「未遂、共謀及び教唆又は煽動」することも処罰の対象になるとしている。これらを処罰するには、特定秘密の不正取得実行以前の行動を把握することとなる。そのためには、これまでの捜査方法では対応できず、米国のように盗聴や内部通告者の起用といった手法が蔓延ることとなる。特定秘密として指定される情報やそれに対する国民の行動が不正な手段を用いて収集される可能性を拡大する法案は認められない。

適性評価

 【概要1の(3)】では秘密を取り扱う公務員に行う適性評価について記されており、「諜報・テロ活動との関係に関する事項」、「犯罪及び懲戒の経歴に関する事項」、「精神疾患」、「薬物の乱用・影響」等の事項を調べるとしているが、これまで情報を漏らした人たちがこのような項目で秘密取り扱い不適当者と判断されうる人物であったのか否かについて検証されているのか疑問が残る。その様な状況で、精神疾患等の秘匿性の高い情報を調査するのは、本人の同意を前提としたとしても本人にとっては不必要な情報提供に終わってしまう可能性がある。

 またこれらの事項について、行政機関の長や警察本部長が、関係者や公私の団体に照会することが出来るとしているが、精神疾患等を有する人の情報等について医師は必ず照会に応じなければいけないのか、またどの程度の情報提供を求められるのか明らかにされたい。

 適性評価終了後、評価の際に取得した個人の情報が破棄されるとは考えられない。蓄積された個人情報は目的外での利用・提供も含め一度外部に漏れれば当事者の社会的な信用を失墜させかねない。そもそもこのような適正評価はプライバシー県の侵害であり、認められない。

刑罰

 刑罰を懲役10年以下と、「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」(MDA秘密保護法)なみに引き上げることとなっている。この厳罰化は、特定秘密が軍事的な意図をもって指定されるということを体現することに他ならない。MDA秘密保護法は、アメリカからの要請に基づくものだ。世界の潮流は「情報は公開し、透明性を確保すること」だ。

 集団的自衛権について議論がなされる昨今、このような法律案が提案されたことは、日本が戦争に参加する素地を作り上げるための法律案であるとの強い懸念を抱かざるを得ない。既に可決されている共通番号法案で国民の個人情報を収集する一方で国の安全に関わる情報は国民に還元されないとすれば、国民の国に対する不信感はますます募るばかりである。

総論

 いま国は国民総背番号制を敷いて、国民一人ひとりの収入や税金、社会保障の出費と受けたサービスの額、さらには健康や医療情報を集めて、データベース化しようとしている。

 国に情報を集中・独占させ、特定の個人を狙い撃ちして情報収集することを官僚に可能にさせる「共通番号制」法が成立したが、つづいて「国の安全」「外交」「公共の安全及び秩序の維持」という3分野の情報を国家秘密の対象として罰則付きで情報統制する「特定秘密法案」が出てきたことは偶然ではないだろう。

 権力による情報の操作や隠蔽によって引き起こされる被害は、その大きさでも深刻さでも甚大であり、想像を絶する規模と年月にわたって人々に苦難をもたらす場合がある。このことを我々は戦前戦中戦後を通じて経験してきたし、原発事故も含め現在も経験している最中である。

 国家や民間企業による情報の独占には十分な警戒が必要である。公害・環境分野でも国や民間企業による情報隠しが、国民に重大で深刻な健康被害をもたらしたことを考えると、国に対する情報公開請求権を国民に保障するとともに、その対象を民間企業まで広げることが必要かもしれない。いずれにせよ、国民に不利益を与える「情報隠し」をさせないシステムが求められている。

 このような立場から東京保険医協会は特定秘密の保護に関する法律案に反対する。

以上

「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見[PDF:109KB]