公開日 2016年06月24日
2016年6月24日
中央区長 矢田 美英 殿
東京保険医協会
会長 鶴田 幸男
地域医療部長 森本 玄始
本年10月から定期接種となる「B型肝炎ワクチン」をめぐっては、定期接種化に向けた議論のなかで、保育園の集団感染で園児同士の感染が疑われる事例1) や、父子や同胞間における「家族内」感染の報告2) など、子どもたちがごく普通に生活をするなかでB型肝炎ウイルス感染の危険にさらされている可能性が強く示唆されました。
国の技術的検討結果等をふまえ、都内では定期接種化を待たず対策に乗り出す自治体も出ています。渋谷区、品川区、千代田区、豊島区につづいて、 2016年2月からは新宿区、5月からは清瀬市、6月からは荒川区も接種費用の助成を始めるなど、接種を希望する保護者らが費用の心配なく適切な時期に接 種できる環境が徐々に整備されてきました。
しかし、国から示された定期接種の対象者は「2016年4月以降に生まれた0歳児」のみであり、特段の経過措置等も設けられていません。10月という年度 途中から制度が始まることもあり、とりわけ2016年4月から7 月までに生まれた子どもの多くが費用負担なく接種が受けられる10月以降に接種を遅らせることが予想されます。この場合、本来望ましいとされる「生後2か 月」からの接種が遅れてしまうだけでなく、体調不良で接種を見合わせる等の事情が重なった場合に3回の接種が完了する前に1歳を超えてしまう可能性も懸念 されます。さらに、2016年3月以前に生まれた子どもへの配慮が一切見られないことも丁寧な制度改正とは言えません。
2014年10月から定期接種となった水痘(みずぼうそう)では、通常の定期接種対象者(3歳未満)とは別に、3~5歳未満への経過措置が設けるなど、制 度改正に伴う一定の配慮が見受けられました。今回のB型肝炎についても、本来は国の責任で十分な経過措置等を設けるべきであり、当会からも同様の趣旨を国 に要望しています。しかし、このまま何ら対策が講じられずに10月から制度が開始されると、前述のような子どもたちは接種費用が全額自己負担となるだけで なく、経済的な理由等により3回の接種が完了しない子どもが生じることも心配されます。
子どもたちの安全な未来を守るうえで、今回の制度改正は重要な岐路であり、高い実効性が問われています。国の制度改正で残された課題について、住民の健康と福祉を担う立場から、ぜひ区市町村として以下の配慮を講じていただくよう、ここに要望します。
記
通常の定期接種対象者
2016年4月から7月までに出生した児について
1.接種費用の心配なく本来望ましい「生後2か月」から接種が受けられるよう、10月以前に自費で接種した費用について償還払いを検討してください
2.体調不良等でやむを得ず定期接種として助成を受けられる「生後12月」を過ぎてしまった場合に、3回接種が完了するまでに超過した分について区市町村独自に助成してください
経過措置
3.定期接種の対象とならない2016年3月以前に生まれた子どもを念頭に、少なくとも「3歳未満」を対象とする区市町村独自の任意接種助成制度を検討してください
以上
〔区市町村宛〕子どものB型肝炎ワクチン接種助成制度の拡充を求めます[PDF:103KB]
(※中央区を含む都内53区市町村宛てに同趣旨の要望書を提出しました)
資料
1) 佐賀県感染症情報センター「保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について」(2006年8月5日)
2) 森島 恒雄「B型肝炎の母子感染および水平感染の把握とワクチン戦略の再構築に関する研究」(2011年)