【銀杏並木】酒の甘辛

公開日 2014年07月15日

銀杏並木イメージ

日本酒の味にも変遷があります。昭和40年代には米も人手も不足したため、原酒にアルコール、糖、水を加えて3倍にうすめた三倍増酒(三増酒)が飲まれました。甘いものが貴重品だったために、甘味のつよい酒が好まれたのです。味わうというよりも、飲酒という儀式のため、あるいは酩酊感のための飲み物だったのかもしれません。

世の中が落ち着き、ゆとりが生まれてくると、ホンモノの味を探すようになりました。昭和50年代になって、「まだ甘口の酒が多いとお嘆きの貴方に」というキャッチフレーズで、「淡麗辛口」のすっきりした飲み口の酒が爆発的にもてはやされました。

80年代のバブル期には、淡麗辛口の酒が良い酒と考えられ、活性炭ろ過まで行われて、酒の「雑味」がとり除かれました。しかし「水の様な飲みくちが最高」とまで言うようになると、風味までも失われた恐れもあり、反省期に入ります。

洋食が普及してワインを味わう人が増え、日本酒に求められる味も変化しました。これまで雑味として嫌われた酸味や香りが、まろやかな風味を感じさせる成分として認知されたのです。辛口といわれる酒にわずかの酸味や香りを加えると、甘口に感じる人が増えるという報告があります。

日本酒の味の評価には2つの座標軸があります。辛口に対する甘口、淡麗に対する濃醇、の2つです。日本酒の味はかつての淡麗辛口から、あきらかに濃醇甘口に変化してきているといわれます。選択の幅が広くなった味わいの中から、自分に合った味を選ぶ楽しみができたと言えるでしょう。

米を削って芯の部分だけでつくる高価な酒は、すっきりした飲み口になりますが、低精白米でつくる酒の複雑で力強い味にも、捨てがたいものがあります。

日本酒は産地によって味の大まかな傾向があり、選択の参考になります。最も濃醇とされるのは佐賀県ですが、かつての会津藩、水戸藩、尾張藩、紀州藩など、徳川家ゆかりの地域がこれに続き、奈良、兵庫も濃淳とされます。淡麗な酒が多いのは北海道、岩手という日本の北部、日本中央部の関東甲信越・東海、そして中国地方と四国東部などです。その他の地域は中間的とみなしてよいでしょう。

もちろん、同じ地域でも酒蔵ごと、銘柄ごとに味が異なることを付け加えねばなりません。うまい!と思える、自分に合った酒がみつかる人は幸せです。銘柄や値段に惑わされずに飲んでみましょう。

ただしくれぐれも、お酒に飲まれることのないように、お気を付けください。(by.ポチ)

(『東京保険医新聞』2014年2月5日号掲載)