リポート 原水爆禁止世界大会2013 核兵器は「絶対悪」――非人道兵器として禁止を

公開日 2013年08月25日

長崎平和祈念の像

8月7日~9日、7,000人の参加で開催された「原水爆禁止2013年世界大会・長崎」。東京反核医師の会は、この大会に渡辺吉明代表委員(東京歯科協会顧問)と山崎広樹委員(東京保険医協会会員)を派遣。8月8日に開催された分科会のうち、「映像のひろば」の企画を担当し、当日はアニメーション監督の有原誠治氏とともに分科会の運営にあたった。

今年はアカデミー賞監督オリバー・ストーン氏が登場することもあり、分科会では726人の参加者が交流した。当日の模様を野中事務局員がレポートする。

どんなに残酷に見えても、つまらないものであっても歴史は実際の姿を伝えるべき

8月6日、松井一実広島市長は、広島平和宣言で結婚や就職での差別、一生続く健康不安などと闘って来た被爆者を紹介。無差別に多くの市民の命を奪い、終生にわたり心身をさいなみ続ける原爆を「絶対悪」であると指摘した。

8月9日、田上富久長崎市長は長崎平和宣言を読み上げた。そこでは、核廃絶へ積極的に動かない政府の姿勢を厳しく批判している。

日本政府は今年の4月、ジュネーブで開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議準備委員会で提出された核兵器の非人道性を訴える共同声明への署名を拒否。政府はその理由を「人類はいかなる状況においても核兵器を使うべきでない」という文言が受け入れられないからとした。

田上市長は、政府は「核兵器の使用は状況によっては認める」という姿勢を示したと指摘。これは二度と世界の誰にも被爆の経験をさせないという被爆国の原点に反すると批判した。

また長崎平和宣言は、2013年5月、日本政府がインドとの原子力協定の交渉を再開した点も言及した。1970年に発行した核不拡散条約は、核兵器保有国を米露英仏中の5カ国以上増やさないようにする制度で、核軍縮と核不拡散に取組む義務と同時に原子力を平和利用する権利が与えられている。

核不拡散条約には現在インド、パキスタン、イスラエルを除く国連加盟国190カ国が加盟している。1998年、インドは核不拡散条約に加入しないまま核兵器の保有を宣言した。そのようなインドと原子力協定を締結することは、核不拡散条約を形骸化するものであり、北朝鮮などの核不拡散条約を脱退して核兵器の保有を目指す国の動きを正当化するものであると批判した。

2013年6月、アメリカのオバマ大統領は今ベルリンで「核兵器が存在する限り、私たちは安全ではない」と述べ、ロシアに対し核軍縮を呼びかけた。国際社会でも2008年パン・ギムン国連事務総長が核軍縮演説で核兵器禁止条約に言及したことなどをきっかけに、世界では核兵器の持つ非人道性に着目し、国際法上禁止しようとする動きが出てきた。

今、2015年の核不拡散条約再検討会議に向けて、核廃絶の流れが急速に広がっているのである。

東京反核医師の会 “映像のひろば”を企画運営――オリバー・ストーン監督が参加

分科会「映像のひろば」(中央左:渡辺吉明先生/中央:オリバー・ストーン監督)
分科会で司会を務めた山崎広樹先生

8月8日、東京反核医師の会は分科会「映像のひろば」をアニメーション監督の有原誠治氏と共に開催。

午前の部では、原爆認定集団訴訟記録映画「おりづる」を上映。司会に山崎広樹先生、「おりづる」監督の有原誠治氏、原爆症認定集団訴訟・全国弁護団連絡会事務局長の宮原哲朗弁護士、訴訟に深く関わった田部智恵子弁護士をコーディネーターに、映像鑑賞の後、議論を深めた。

分科会で司会を務めた山崎広樹先生 「おりづる」は原爆認定集団訴訟の背景、裁判官はなぜ原告被爆者の主張を認めたのか、政府は被爆者の救済になぜ消極的なのかなど、インタビューや平易な図を用いて描いている。

宮原弁護士は「被爆実態こそ裁判の原点。裁判では多くの被爆者の現状や、被爆直後の状況、急性症状を訴えてきた。裁判官はこの事実の重みを正面から見据えて判決を書いてくれたと思う」と語った。

会場からは、「20代の人は原爆の悲惨さは知っているのだが、悲惨であるという以上のことは知らない人が多い。今日学んだことを伝えていくのが大事」との大学生の発言や、「この映画を見て原爆認定訴訟の大切さを知り、眼が開かれた。『おりづる』を買って帰り、地元で上映会をしたい」といった声が上がった。

オリバー・ストーン監督

午後の部ではNHK-BSで放送されたドキュメント「もうひとつのアメリカ史第3話『原爆投下』(オリバー・ストーン監督・脚本/ピーター・カズニック脚本)」を鑑賞した。

オリバー・ストーン監督は製作のきっかけについて「以前、高校生である娘に歴史の教科書を見せてもらったが、うそは書いてはいないのだけれども、起こったことの一部しか描かれていない。アメリカ全体で中高生に教えている歴史というのは、自国の醜い部分を全て浄化した、まるでディズニー映画のような耳触りの良いものでしかなかった」と説明。

最後に「歴史を学んで真実を知っている人が若者にそれを語ってほしい。歴史を語るときは、どんなにつまらないものでも、残酷であっても、実際の姿を伝えるべきである。歴史を学ぶことこそが、過去の過ちを将来に繰り返さない道なのである」と締めくくった。

(『東京保険医新聞』2013年8月25日号掲載)