保険商品現物給付へ 金融庁担当者へ要請 協会の訴えも取り合わず

公開日 2013年05月05日

金融庁担当者に訴える須田副会長(左)

金融庁は保険商品の現物給付を認めていないが、「保険商品・サービスの提供等のあり方に関するワーキング・グループ」のなかで擬似的な現物給付が解禁されようとしている。

4月18日、神奈川協会の呼びかけで金融庁担当者からこの問題についてヒアリングする機会が設けられ、東京協会からは須田副会長が参加した。

契約者は保険会社が保険金を契約者自身に支払うか、サービスを提供した医療機関、介護事業者や葬儀社などに支払うかを選ぶことができることにする。金融庁は後者の場合を「直接支払い」と定義した。加えて、保険会社が直接支払い可能な事業者として提携する医療機関や介護施設を紹介する付帯サービスをあわせて提供することが提案されており、これにより擬似的な現物給付を可能とさせる算段だ。

今後、公的医療保険制度の改悪が続けば、完全自由診療の民間医療保険も出てくるだろう。保険がカバーする範囲、医療の価格などを個々の契約に任せれば、医療費が高止まりすることは必至だ。協会側は「紹介されたサービスが保険料に見合った給付であることを誰が担保するのか」と問いただしたが、金融庁側は「サービス内容・水準を提携事業者と定めることは指針に定めるが、紹介サービスはあくまで付帯サービスであり、その質については金融庁の責任はない」との回答にとどまった。

須田副会長は「保険会社が必要な検査、処置を保険カバーの範囲外として医療機関に費用を支払わず、結果として診療内容が制限される恐れがある。自動車賠償責任保険で既にそのようなトラブルが多発している。経済的に誰もが加入できるわけではない民間保険拡大を理由に、質が担保された公的保険を縮小することのないようにしてほしい」と訴えたが、金融庁担当者はあいまいな答弁に終始した。

手続き論でごまかす金融庁

須田 昭夫 先生

須田 昭夫

(東京保険医協会 政策調査部長)

金融庁は生命保険の現物給付を容認していない。しかし「指図払い」(直接支払い)という手続き論でごまかした。国民の裏をかく行政の姿が悲しい。

現物給付はなぜ禁じられて来たのだろうか。本道に戻って考え直してほしい。現金払いは消費者に最もわかりやすいはずだ。

外資を中心に販売されている医療関連の民間保険の総額は、すでに公的医療保険の窓口負担額を上回る売上げであるという。消費者が病気を恐れる気持ちは強い。

しかし、集めたお金から加入者のために支払われる金額は20%足らずといわれる。保険会社の膨大な利益の実態は不透明だ。現物支給またはそれに近い給付を採用すれば、経営実態はますますわかりにくくなる。

社会的公正さを保つためには、保険料のうち何%が加入者の支払いにあてられているのかを公表することが必要ではないか。

生命保険の加入者に、保険会社が提携する医療機関や介護施設への「優先権」が与えられるならば、それはもう商品であり、指図払いとはいえない現物給付とみなすべきだろう。