国家戦略特区法案に反対する

公開日 2013年11月14日

2013年11月14日
東京保険医協会
政策調査部長 須田 昭夫

 いま、日本の医療供給体制は危機を迎えている。救急医療、小児医療、周産期医療、がん医療など、各科にわたる医師不足、看護師不足は深刻であり、東日本震災被災地域をはじめ、国民医療を守るために医療供給体制の整備・拡充は緊急の課題である。にもかかわらず、国は貴重な医療資源を医療・健康「産業」の利益のための「国家戦略特区」に注ぎ込もうとしている。

 アベノミクス第3の矢である成長戦略は、「医療・健康」分野を「産業」と位置付け、企業が利潤を上げることを可能にする市場を創出しようとしている。そのために「国家戦略特区」が打ち出された。

 「国家戦略特区における規制改革事項等の検討方針」(2013/10/18)では、医療分野の戦略として①国際医療拠点における外国医師の診察・外国看護師の業務解禁、②高度医療提供を目的とした病床の新設・増床の容認、③保険外併用療養の拡大等が挙げられている。

 この「特区」は投資や、高度医療を提供する病床の増床、外国人医師の医療行為などの規制を緩和して、医療機器や製薬メーカー、保険会社、医療機関、研究機関などが様々な医療・健康商品を開発し、内外の「高度医療」とともに自由価格で販売できるようにするのが狙いである。

 「特区」では「お金で健康や医療を買うことができる者のための医療」に資金、頭脳、技術や人手が投入される。当然、地域医療などの儲からない医療は埒外に置かれ、公的医療制度という国民のセーフティーネットが顧みられなくなる恐れがある。

 「高度医療」は収益を生み出す商品として、その価格は高止まりするだろう。その一方で、医療・健康産業の利益を守るために公的医療保険への採用は回避され、皆保険は自費診療の下支えをする仕組みに変質させられるだろう。国民は進歩する医療の恩恵を公的医療制度からは受けにくくなるのだ。

 11月8日、衆議院本会議で審議入りした「国家戦略特別区域法案」には高度医療を提供する「事業」には「利子補給金」を出すとある。公的医療制度への支援を怠る一方で、「公的保険外医療体制」の構築のために財政出動を計画する政府の姿勢は糾弾されなければならない。

 われわれは保険医として、国民医療を守り充実させる立場から、医療・医学の恩恵から国民を遠ざけるとともに、地域の医療供給体制を弱体化させ、自費診療を下支えする「補完」制度に国民皆医療保険制度を変質させる「国家戦略特別区域法案」に断固反対し、その撤回を求めるものである。

以上
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