「予防接種に関する基本的な計画(案)」に関する意見

公開日 2014年02月27日

2014年2月27日

厚生労働省健康局 結核感染症課 法令係 御中

東京保険医協会
会長 拝殿 清名

 以下の内容を計画(案)に盛り込むことを要望する。

  1. 感染症などから国民を守ることは一義的には国の役割である、と基本計画上に明記すべきである。そのうえで、国の役割として、定期接種(A類およびB類)に定められるすべての予防接種を、被接種者の自己負担なく全額公費で接種が受けられる体制を整備すること

  2. 国は、定期予防接種の機会を逸失した対象者の把握や、より積極的な個別勧奨を行うため、予防接種台帳の電子化をさらに推進すべく市区町村に対して必要に応じた財政支援を行うこと

  3. 国の責務として、現行の予防接種を受けたことによる健康被害への救済制度について、現行の定期接種(A類疾病)の給付内容をさらに拡充するとともに、国際水準のワクチンについては予防接種の種類(定期接種A・B類疾病、臨時接種および任意の予防接種)に関わらず、少なくとも現行の定期接種(A類疾病)並みの救済措置を行うこと

  4. より科学的根拠に基づいた予防接種政策を行うため、可及的速やかにいわゆる日本版ACIPを創設すること

理由:

 現在の予防接種制度では、実施主体が市区町村であるため、居住地によって接種費用の負担の有無、金額の多寡などがそれぞれに異なる。さらに、一部自治体の努力により、居住地以外での接種費用について償還払いを実施、または、接種者がいったん費用を負担することなく接種が受けられるよう自治体間で相互乗り入れが進められている。本来の予防接種制度は接種者の居住地に関わらず、全額公費により接種が受けられるべきであり、個々の自治体の財政状況により費用や対応に格差が生じることのないよう、「国の役割」として市区町村に対する財政支援等も含め、予防接種政策の充実を進めるべきである。

 次に予防接種台帳の電子化について、基本計画(案)の示すとおり、現状では自治体規模等(人口、財政状況)により進捗状況が異なるが、将来的には個人単位で全ての予防接種歴が容易に確認可能な体制が必要と考える。これにより、例えば、特定の予防接種について法定接種期間に所定回数を接種できなかった者(接種もれ者)に対して、必要に応じて個別通知等さらに積極的な勧奨が容易に可能になることが期待される。2008年から時限措置として実施されたMRワクチン接種事業(第3期:中学1年生、第4期:高校3年生)においても、2012年度の全国接種率で見ると定期(第1期および第2期)については多くの都道府県で90%以上の比較的高い接種率である一方、時限措置(第3期および第4期)については明らかに接種率の低迷が見られた1)。厚生労働省の積極的な対策の結果、2008年以降、麻しん患者は明らかな減少を成し遂げたものの2)、2013年を中心に流行した風しんをはじめ、今後も突発的に感染症が流行する可能性が十分にある3)。風しん・麻しんに限らずすべての定期接種について予防接種台帳の電子化をさらに推進することで必要な対策が講じられるよう、国は責任を持って市区町村の予防接種台帳の電子化に対して必要な財政支援等を行うべきである。

 3点目に、予防接種の副反応に対する補償について、現在の補償制度では、予防接種の種類(定期接種A・B類疾病、臨時接種および任意の予防接種)によって給付範囲や金額が大きく異なる4)。一定の障害が生じた18歳以上の者に支給される「障害年金」で比較すると、臨時接種およびA類疾病の定期接種で最も重度の1級と認定された場合は「年額482万5200円」に対して、B類疾病の定期接種では「年額268万800円」である。死亡した場合の補償でもそれぞれ「4220万円」(死亡一時金)と「703万4400円」(遺族一時金、生計維持者でない場合)で大きな格差である。また、定期接種として位置づけられているワクチンであっても、例えば、法定年齢を超えて接種した場合は定期接種としてみなされず、接種による副反応への補償は、さらに別の「医薬品副作用被害救済制度」による補償となる。国際水準のワクチンについては、少なくとも現行の定期接種(A類疾病)並みの給付内容とすべきである。

 最後に、本来の予防接種政策は「政府からの独立」と「情報公開」を原則とし、科学的根拠に基づいた指針の提示、定期的な政策の評価と改善、ワクチンの品質・安全性の継続的なモニタリングなどが求められる。しかし、現行の予防接種ワクチンの承認プロセスだけを見ても、メーカーによる申請を受けたPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)および厚生労働省による審査、その後の政策決定に至るまでが縦割りとなっておりその過程が不透明である。新たな基本計画(案)の示すとおり、よりいっそう「科学的根拠に基づく予防接種施策の推進」が求められる。2013年の予防接種法改正により新たに設置された予防接種・ワクチン分科会のもと、2014年度から米国の予防接種諮問委員会(ACIP)にならい「参考人の招致」と「傍聴者からの意見聴取」が取り入れられるなど前進が見られるが、将来的には行政から独立した、いわゆる日本版ACIPを創設し、より充実した予防接種政策を求める。

1) 厚生労働省「平成24年度麻しん風しん予防接種(第1期~第4期)実施状況(2013年3月31日現在)」[PDF:92KB]

2) 厚生労働省・麻しん対策推進会議「週別麻しん報告数の推移 2008~2012年(2013年1月8日時点)」[PDF:2MB]

3)厚生労働省「麻しん患者の増加について」(2014年2月7日)[PDF:131KB]

4) 厚生労働省「予防接種健康被害救済制度」

以上

「予防接種に関する基本的な計画(案)」に関する意見[PDF:147KB]