「風しんに関する特定感染症予防指針(案)」に関する意見

公開日 2014年02月28日

2014年2月28日

厚生労働省健康局 結核感染症課 法令係 御中

東京保険医協会
会長 拝殿 清名

 以下の内容を指針(案)に盛り込むことを要望する。

  1. 対策の対象を「妊娠を希望する女性」および「妊婦の家族」だけではなく、20~40代の全ての成人男女に必要な対策を行う旨を明文化すること。

  2. 1の対策として、「抗体検査」による選別を行うのではなく、抗体価の有無に関わらず20~40代の全ての成人男女に風しんの予防接種を実施すること。具体的には、2008年から5年間に限り実施された麻しん定期接種(第3期・第4期)の成功例にならい、25歳、30歳、35歳、40歳、45歳到達時に全ての成人男女にMRワクチンを接種すること。

  3. 2の実施に当たって、国および都道府県は、住民の居住地により接種費用負担の格差が生じることのないよう、また全額公費により接種が受けられるよう必要な財政支援を行うこと

  4. 2の実施に当たって、都道府県は、市区町村間の相互乗り入れが可能になるように努め、対象者がいつでもどこでも公費で風しんの予防接種が受けられる体制を整備すること

  5. 今後さらに出生が心配される先天性風疹症候群(CRS)児への対策として、国および地方自治体は、「医療従事者に対する情報提供」のみならず、国民に対しても幅広く情報提供を行うとともに、出生したCRS児の育児・保育体制の整備、保護者に対するカウンセリング等を含めた養育支援、そして医療費助成や就学援助などの公的支援制度を国の責任で整備すること

理由

 指針(案)の前文では、2012年から2013年にかけて20~40代の成人男性等を中心に風しんの大規模な流行が発生し、その多くが風しんに対する免疫を持たない世代を中心に広がった、と分析している。しかし一方で、同指針(案)において国および地方公共団体が行う対策は“風しん抗体検査”と“接種の勧奨”のみにとどまっており、さらにその対象を「妊娠を希望する女性等に焦点を当てた対策が重要」と結んでいる。

 国立感染症研究所が発表した「日本人男性の年齢別風しん抗体保有状況 ‐2012年感染症流行予測調査」でも、20~40代の成人男性の抗体保有率が極端に低く、今後も流行する可能性がある風しん拡大のリスク因子となりかねない状況である1)。これまでの風しん予防接種政策の変遷の結果、1962年4月以前に出生した男女は全て風しんの予防接種が未接種となっており、また1979年4月以前に出生した男性も同様に全て未接種と言われている2)。

 風しん流行防止を防止し、同指針(案)が「2020年までに風しんの排除を達成する」ことを目的とするならば、抗体検査による対象者の選別に費用を投じるのではなく、2008年から4年間の時限措置として実施した「麻しん排除計画」(第3期:中学1年生相当年齢、第4期:高校3年生相当年齢)の実施により麻しん患者数が激減した成功例にならい3)、例えば、2015年から2020年まで全ての成人男女を対象に25歳、30歳、35歳、40歳、45歳の年齢到達時に風しんの予防接種を実施することで、前述のように先の流行の中心となった世代および風しんの抗体価が低い世代に対する効果的な対策となり、より確実に同指針(案)の目的が達成できると考える。

 さらに、先の流行を受けて、2013年度に東京都および都内市区町村が独自に実施した「成人に対する風しん予防接種費用の緊急助成事業」では、一部の自治体では20~40代の市民全てに対して接種費用の助成を行っているが、残念ながらその他の多くは“妊娠を希望する女性”および“妊婦の夫”に限った助成にとどまる。さらに、居住する自治体以外で接種した場合は多くの自治体で助成の対象とならない4)。サラリーマンなどが居住地以外(勤務先の周辺など)で接種した場合も助成が受けられるようになれば、休憩時間中や帰宅途中などに接種を受けることができ、職場における感染拡大をより低下させることが期待される。

 最後に、国立感染症研究所(NIID)の発表では、2012年から2014年1月29日までに判明しただけで41例の先天性風しん症候群の患者が報告されている5)。実際に出生したCRS児および保護者への支援について、出生したCRS児の育児・保育体制の整備、保護者に対するカウンセリング等を含めた養育支援、そして医療費助成や就学援助などの公的支援制度を国の責任で整備すべきである。

1) 国立感染症研究所「年齢/年齢群別の風疹HI抗体保有状況(抗体価1:8以上)」[GIF:13KB](2013年3月5日現在)

2) 五十嵐 隆「わが国における予防接種体制 ‐現在と未来‐」、日本医師会雑誌第142巻・第8号、2013年11月、1706頁

3) 厚生労働省・麻しん対策推進会議「週別麻しん報告数の推移 2008~2012年(2013年1月8日現在)」、2013年3月8日[PDF:2MB]

4) 東京保険医協会・地域医療部「大人の風しん予防接種の公費負担状況 (2013年12月調査、島嶼部を除く)」

5) 国立感染症研究所(NIID)「感染症発生動向調査2014年1月29日現在」

以上
「風しんに関する特定感染症予防指針(案) 」に関する意見[PDF:138KB]