国民のいのちと健康を危険にさらす「スイッチOTC薬の医療費控除」特例の新設に抗議します

公開日 2016年01月05日

2016年1月5日
東京保険医協会
会長 拝殿 清名
政策調査部長 須田 昭夫

 政府は、2017年1月から「セルフメディケーション(自主服薬)推進」の名のもとに、市販の「スイッチOTC薬」の購入金額が年間1万2,000円を超える場合に、8万8,000円を上限に医療費控除の対象とする特例の新設を閣議決定しました。これは単なる医療費削減のために、国民を市販薬へと誘導し、安易な自己判断による治療に向かわせ、望ましい医療から遠ざける危険のある税制であることに抗議します。

 急性感染症や急性外傷は、簡単な手術や投薬で治療することができます。ところが現代の医療の中心課題は、生活習慣病、慢性臓器疾患、精神神経障害、整形外科的疾患、慢性感染症、認知症など、生涯にわたって治療が必要な疾患です。がん、脳卒中、心筋梗塞などの重篤な疾患も増加しています。一人の患者が複数の疾患を持つことも、普通のことになっています。これらの疾患は単に投薬を促すだけではその治療がほとんど成り立ちません。

 いま地域で開業する医師も、病院の外来を担当する医師も、多くは科別の専門医ですが、それぞれの目を通した全人的な診療をおこなっています。治療に際しても受診者の自覚症状、診察所見、病歴、家族歴、職場環境、検査所見などの情報から一人ひとりの問題点を丁寧に把握します。しかし診断や治療方針は、はじめから確定するものばかりではなく、病状判定は治療と同時進行しなければならないこともあります。そして治療は病状に応じて随時変更される必要があります。

 医師は診療にあたって、患者に保健衛生の知識を提供し、病気の理解をたすけ、治療の意欲をそだて、問題解決に向かわせるために努力します。処方薬は薬物としての効果だけでなく、患者の定期的な通院をうながすツールとして計画的な治療管理にも貢献しています。さらには治療にあたって、薬剤の副作用の兆候、新たな症状や合併症・併発症への注意もとくに重要です。

 定期的に通院する患者に同じ処方箋が繰り返されたとしても、それは医師の責任ある判断の結果です。しかるに自己判断によるセルフメディケーションや、医師の処方箋の繰り返し使用(リフィル処方箋)のなど奨励は、目を塞いで自動車を運転させるようなものであり、患者をいのちの危険にさらすことになります。

 われわれ医師の立場として、安易にスイッチOTC薬購入に医療費控除を適用しようとする計画に強く抗議して、その撤回を求めます。

以上

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