東京保険医協会 新点数諮問案検討会「アピール」

公開日 2016年02月27日

2016年2月27日
東京保険医協会 病院有床診部

 
患者の峻別と病院生き残り競争の激化を招く改定
~病院・地域での十分な医療提供を可能とする診療報酬を~

 今次診療報酬改定は本体部分こそ0.49%の引上げだが、薬価・材料の引き下げにより、公称では全体で0.84%の引き下げとなる。加えて、医薬品価格の適正化等により更に610億円を削減するため、実質的には1.31%の引き下げである。

 医療費抑制策の中、本改定の柱は「地域包括ケアシステム」、「医療機能の分化・強化、連携」である。この柱の実現のため、診療報酬と対をなすものが地域医療構想であり、病院・有床診療所は互いに協議の上、自院の病床機能を選択し、区域内の病床を整理していくこととなる。東京都内では今後も増床が見込まれており、医師・看護師等の医療従事者やその他スタッフを確保しなくてはならないが、病床機能報告でさえ煩わしいのに、不当に低く評価された診療報酬で充分な体制を構築することは不可能に近い。

 例えば今回、看護職員の夜勤時間の計算方法が緩和された。これは月平均夜勤72時間の固持を求められる病院管理者には良いことかもしれないが、一方で看護職員の労働環境悪化・雇用の不安定化を助長する恐れもある。良質な医療機能分化を推進するのであれば、従来の基準のまま看護職員を増員できるような、誰もが納得できる報酬が提案されて然るべきである。

 昨今の医療制度改革の大きな流れは「医療から介護へ」、「病院から施設、在宅へ」と評されるが、今次改定ではそのすき間を埋める具体的な移行策が露わとなった。

 一般病棟の重症度、医療・看護必要度についてはA,B項目の整理に加え、手術等の医学的状態を評価するC項目が新設された。急性期医療の定義を「病状が安定するまでの間」から、「手術や急性期処置が終了して数日間」と変更する下地を作ったといえる。

 地域包括ケア病棟で手術・麻酔が出来高算定可能となったことも、地域急性期を担わせる意図を匂わせる。また、回復期リハビリテーション病棟ではリハビリのアウトカム評価の名の下に、入院日数に応じたFIM改善度が一定水準(27点)未満の場合、1日の7~9単位目の疾患別リハビリは入院料に包括される。成果の出にくい患者は敬遠されがちになり、地域包括ケア病棟や外来リハに流される可能性がある。

 療養病棟では在宅復帰機能強化加算の要件が見直され、自宅・介護施設への退院を促す。さらに、療養病棟入院基本料2には「医療区分2又は3の患者が5割以上」との施設基準が加えられたが、急性期~在宅間の腰掛けベッドに変容する恐れがある。

 入院患者の峻別の結果、未だ医療ニーズの高い患者が外来、在宅に移行する。在宅医療の改定について、在宅時(施設入居時等)医学総合管理料は、患者の重症度や居所、単一建物診療患者(同月内に同じ建物内で管理を行う患者数)によって点数が細分化された。訪問診療月1回の管理料が新設され算定しやすくなったものの、診療人数による減算が拡大したことは大きな痛手であり、在宅を担う医療機関の撤退も懸念される。

 さらに本改定では外来の機能分化・連携を推進するとして、認知症に対する主治医機能の評価(認知症地域包括診療料・加算)、小児に対するかかりつけ医評価(小児かかりつけ診療料)、紹介状なし大病院受診時の定額負担の義務化が導入された。ゲートオープナー役を押し付けることによって民間医療機関、開業医をコントロールする意図が明らかである。

 政府は今後5年間で社会保障費を毎年3,000~5,000億円削減する目標だ。本改定も地域医療の充実を志す現場の思いを実現するものではない。我々は、退院した患者が地域で安心して療養生活が送れるような体制を構築するために必要な人材・資金・物資が充足される診療報酬制度、医療政策を求める。

以上

東京保険医協会 新点数諮問案検討会「アピール」[PDF:135KB]