保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【主張】参加国の主権を奪うTPP 国連人権委員会はTPP離脱を勧告

公開日 2016年09月15日

 国連は食料自主権という言葉を提唱している。全地球的に飢餓が蔓延しており、各国は食料の増産に努め、干ばつ、水害、動乱などによる飢餓から、自国民を守らなければならないという考えだ。食料の自給率がすでに40%以下となっている日本は、経済力にまかせて食料を買い漁っており、貧しい国々の飢餓を増強させていることを反省するべきだ。日本がTPPに参加すれば日本の農水産業を壊滅させ、世界の食糧難を悪化させるという観点からの国会審議を望みたい。

 医療においてもTPPは深刻な事態をもたらすことがわかってきた。政府の説明によれば、TPPには医療の項目がないので国民皆保険体制は無関係だと言う。しかし米国はかねてから、医薬品の自由価格販売、自由診療の全面解禁、営利企業の病院経営などを求めている。年々その中身は具体的になっており、2008年の対日要望書では「米国製薬業界の代表を中医協の薬価専門部会委員に選任する」ことを要求している。すべての分野で100%の自由化をもとめるTPPが、医療だけを除外することはありえない。

 TPP交渉では、知的財産権、サービス業、金融・保険・投資、透明性などの項目が医療と深いかかわりをもっている。TPPには薬価の非常識な高騰をまねくしくみと、自由診療によって医療費を際限なく膨張させるしくみがあり、この二つだけでも国民皆保険体制を破たんさせるだろう。

 安倍政権は国際的企業の圧力に押され、「TPP断固反対」の選挙公約に違反して交渉に参加したが、秘密交渉では主導的な立場をとったという。交渉経過をすべて明らかにした上で、内容のある審議を期待したい。TPP秘密交渉を担当した甘利経済産業大臣が金銭疑惑によって失脚したことを、秘密交渉隠しに利用してはならない。

 2015年10月5日、TPP交渉は大筋合意に至ったが、暫定合意書は英語、フランス語、スペイン語で全文公開されている。しかし日本語の正文は、公開されていないどころか作られてもいない理由を明らかにするべきだ。日本を植民地以下に扱うことは許されない。

 医薬品は米国に巨大な利益を与える品目であるが、特許期間20年にはデータ保護期間8年が加えられた。TPPには際限のない再交渉が義務付けられているために、特許権が無期限化される可能性が大きく、参加国は利益のないリスクをおし付けられている。

 世界人口の1.6%を占める日本人は、世界の医薬品の40%を消費しており、日本の医療市場の規模は40兆円にのぼる。医薬品の特許期間を無期限化して自由価格販売を認め、すべての先進医療を公的医療保険から外して民間医療保険にまかせれば、米国医療産業の利益は莫大である。

 民間医療保険会社が求めたときに、公的医療保険への補助金が廃止されれば、国保の保険料は数倍に膨らむだろう。そして、民間医療保険だけでよいと考える富裕層が公的医療保険を脱退すれば、国民皆保険体制が崩壊し、命の格差が拡大する。米国大統領選挙の候補者でTPPを支持する者はなく、TPP交渉参加国の承認手続きがまったく進まないなかで、TPPの被害ばかりをうける日本が、批准を急ぐ理由は全くない。

 ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏も、TPPが史上最悪の貿易協定であると批判している。TPPの秘密交渉は参加国の主権を奪っており、交渉から離脱するべきだという国連の人権委員会の勧告には、従うべきだろう。

(『東京保険医新聞』2016年9月15日号掲載)

関連ワード