被災地福島は「収束」していない

公開日 2013年03月15日

松本 純  (生協いいの診療所=福島県福島市/福島県保険医協会理事)

松本 純
(生協いいの診療所=福島県福島市/福島県保険医協会理事)

震災・原発事故から2年、福島県の現状は、人口動態にどのように現れているのだろうか。昨年11月から福島県への転入が転出を上まわり、増加に転じたことが報道された。

しかし、ここで留意すべきは2点、まず一つは流動の振幅が大きいなかで転入が少し上回ったということだ。この春3月から4月にかけて、入学・卒業や就職・退職といった人口移動の季節を迎える。この機会に帰るとの話もあるが、逆に引っ越すとの話も聞かれる。ともに原発事故がなかったら、これほどではないはずの行く人来る人のなかでの差し引き微増だ。

もう一つは「放射能が心配でいたたまれません、すみません」と泣く泣く転出していく人はめっきり少なくなった。準備して条件を整え、満を持しての転出だ。また帰り来る人は、放射能の話題については言葉少なだ。このように家族・親族や旧知の間柄でも、様々な思いのなかに放射能汚染の陰が見え隠れしながらまとわりついて、晴ればれとしない。

避難を指示され住むところを追われた10万人の多くは、自主避難地域とされた福島・郡山・二本松市など福島県中通り地方の都市部や会津地方で避難生活を送っている。あわせて195万人福島県民の安心・安全を取り戻すためには、子どもの健康問題は最重要課題だ。原発事故当時18歳以下だった福島県民36万人を対象とした甲状腺エコー検査は、3年目の今年中に全員行きわたらせる計画で進められている。

しかし小さい子どもを持つ親の心配は尽きない。福島市医師会は「地域で気軽に甲状腺エコー検査を受けることができる体制づくり」を呼びかけている。

先ごろ私の勤務する生協いいの診療所でも、2年先の経過観察の合い間や19歳以上で検査を希望する人への甲状腺エコーを行った。小さい結節や嚢胞は半数以上と高率にみられたが画像を示し、その場での説明がなによりの安心につながるものと感じた。

放射線障害と甲状腺がんについての医学的解明には、これから長い年月をかけ、医学界をあげて取り組まなければならないと思う。

それにつけても、ほんとうの「収束」の見込みもおぼつかない原発事故現場には、福島県民としてオチオチしていられない。にもかかわらず全国的には原発再稼働の動き、さらに再登場した安倍政権はこともあろうに原発の増設・新設の発言だ。被災地福島県民の一人として、福島県内の10基の原発はすべてを廃炉にして、日本政府には「原発ゼロ」を実現する政治決断をせまりたい。

(『東京保険医新聞』2013年3月15日号掲載)