腰痛は “気の病” にあらず

公開日 2013年04月25日

「朝日新聞」(2013年3月24日付)は1面で「腰痛2,800万人」との見出しで厚労省研究班による腰痛症患者の調査結果について報じた。ところが、その関連資料として掲載した「図/主な腰痛治療法のお勧め度」(日本整形外科学会などによる腰痛診療指針から)のなかで、「強く推奨」する治療法として「抗炎症薬、鎮痛薬」等をあげる一方、「腰を引っ張る牽引療法」等を「根拠なし」とした。また、同様の「図」は4月9日付同紙「医療」欄にも再掲された。

これに対し会員から「腰痛症で牽引を行うケースは多い。患者から治療法に対する疑問が出された場合、医療現場が混乱するのでは」との不安の声が寄せられた。そこで、整形外科医の田中眞希・協会理事にこれらに対する考え方・対応について話を聞いた。

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田中 眞希  (田中まき整形外科/中央区)

田中 眞希
(田中まき整形外科/中央区)

「腰痛診療ガイドライン関連記事」(「牽引療法は根拠なし」、3月24日の朝日新聞)に対し、私なりの解釈を述べる。なお、4月半ば現在、当院では患者からの本件に関する問合せは皆無だ。

1.「根拠なし」は誤訳で、「エビデンス(治療法選択の際の『確率的な情報』という医学用語で日本語訳はない)なし」と言い換えるべき。また、ガイドライン原文には、 “坐骨神経痛を有する腰痛患者に限定すれば、相反するエビデンスが複数存在し、一定の結論に至っていない”とあるが、記事では触れていない。

2.有効性が高くともハイリスクの治療は、一般的に最初は選択しない。牽引は、内服に加える比較的安全な初期治療と位置付ければよい。漫然と続けるのは考えものだが、いきなりMRI撮影ではなく、数週間の牽引後に精査必要かを判定するなら、過剰検査抑止にもなる。

3.また記事では “明らかな原因がないなら安静は推奨しない”とも記述されたが、原文には“ベッド上安静よりも活動性維持の方が有効”、“腰痛の発症と遷延に心理社会的因子が関与”とある。医師には、器質的疾患の診断のみならず、疼痛を緩和する責任があるので、心理社会的因子を考慮した結果、休養や牽引を選択することも必要だ。

精神科領域では心身相関という概念が、神経生理学分野では、痛みシグナルが扁桃体などの神経回路を介し情動応答(苦痛)を引き起こすメカニズムが研究されている。

ガイドラインを参考にしつつ、腰痛は “気の病”ではないエビデンスも学習し治療に当たりたい。

(『東京保険医新聞』2013年4月25日号掲載)