【視点】憲法96条改定と日本の進むべき道

公開日 2013年05月25日

竹内 隆  (ルカ医院/中野区)

竹内 隆
(ルカ医院/中野区)

憲法改定への第一歩となる左記の96条改定論議が国会内で声高に行われ、改憲派の政治家達によって着々と進められている。

権力者による立憲主義の否定

制定以来一度も改定されなかった憲法に対し、改憲派の急先鋒である安倍総理はじめ麻生副総理等、憲法制定時の為政者の孫達が改定に向けて動き出し、手始めに改定要件とされる96条を改定して、国会での発議要件を3分の2から2分の1へと緩和して、一気に9条を含む憲法改定に持ち込もうとの意図がうかがえる。

3月14日、日本弁護士連合会では「憲法第96条の発議要件緩和に反対する意見書」を発表し、この改定は「立憲主義」(人間は生まれながらにして自由と人権を持ち、それを守るために政府の権力を縛るために憲法をつくるという考え方)の否定であり、先進各国や旧帝国憲法でも守られて来た改定手続きの厳しさの常識を打ち破る暴挙として鋭く批判している。

マスコミも異様な程の熱気で96条問題を特集し世論調査結果もほぼ出揃っているが、96条改定反対が賛成を上回っているのが現状だ。国民世論が96条改定を求めていないことは明らかであり、憲法で縛られるべき権力者が改憲要件緩和を主張していることを私たち国民は再認識する必要がある。

今なぜ憲法改定なのか。世界に目を向けてみると、平和・非核への希求は世界中に広まっている。

「戦争文化」から「平和文化」への転換

いま世界中を覆う「戦争文化」を「平和文化」に転換しなければ、人類の未来はない。地球上の大多数の国は核廃絶を望んでいる。

「核テロ」が現実の脅威となっているとき、もはや「核の傘」はあり得ない。自国の銃規制もままならず、武器商人の利害のうごめく核兵器保有国米国にあってのキャンペーン効果は望み得ない。核兵器禁止のキャンペーンは何所よりも被爆国日本で始められなければならない。日本が「平和文化」のリーダーになって「戦争文化」のリーダー(米国、ロシア、中国)たちに別れを告げ、非核世界のリーダーとして核兵器保有国の政策転換の説得に取り組むべきである(広島平和文化センター理事長、米国人・スティーブン・リーパー氏の講演より)。

世界で高まる核兵器廃絶の機運

3月にオスロで開催された「核の非人道性に関する国際会議」を核保有国は足並みを揃えてボイコットし、米国は新型核実験を続けている。いま地球上には2万500発の核弾頭が存在し、核実験は1945年7月以来2,052回(臨界前核実験は含まず)に及び甚大な核汚染が引き起こされ多数のヒバクシャが生まれている。もし核兵器が使われれば、地球は住める場所ではなくなり、核の冬が訪れる。

折しも2015年の核不拡散条約(NPT)再検討会議に向け、スイス・ジュネーブで開かれている第2回準備委員会で、核兵器の非人道性を訴えて4月24日に発表された共同声明に日本政府は署名をしなかった。その理由は、米国の「核の傘」に頼る安全保障政策と整合性がとれないためと報道された。

米国の大きな変化

単独主義で武力を用いて核不拡散を進めるブッシュ前政権の政策への批判を持ち始めた米国人は、2007年のキッシンジャー、シュルツ氏らの「核のない世界」への提言を契機に、「力を用いず、みんなと話し合いをして核不拡散を進める」姿勢に同調し、オバマ大統領の「ゴールを明らかにし、大胆な目標を持ち、且つ具体的措置を同時に進める」という前政権とは違う行き方に核廃絶への期待をのぞかせていた。

折しも2009年4月5日、就任直後のオバマ大統領はプラハで行った演説のなかで、「米国は核兵器のない、平和で安全な世界を追求して行くことを明確に宣言する」と述べて、核兵器廃絶を国家目標とすることを初めて明示した。

更に「核兵器を使用したことのある唯一の核兵器保有国として、米国は行動する道義的責任がある」と述べて、広島・長崎での核兵器の使用が人類的道義にかかわる問題であったことを、アメリカ大統領として初めて世界に表明した。

勇気ある発言で、ノーベル平和賞に輝いたのも当然である。しかし米国内に向けてはここまでが限界で、「おそらく私が生きているうちには無理でしょう」とオバマ氏自身が述べいる。

日本の進むべき道

平和市長会議の推進する「ヒロシマ・ナガサキ議定書」は、2020年までに地球上からの核兵器廃絶のため、2015年までに核兵器禁止条約(NWC)の締結を求めている。2010年5月のNPT再検討会議では採択されなかったが、席上、福山哲郎外務副大臣(当時)は日本を代表してNWCを取り上げ、タイムテーブルや交渉期限を設定することが望ましいと述べて、「核兵器のない世界という目的」に踏み込んだ格調高いスピーチをしている。

いま日本に期待されているのは、憲法改定よりもこのNWCのホスト国として名乗りをあげ、世界をリードすることだ。「対人地雷禁止条約」がホスト国カナダで、「クラスター弾禁止条約」がホスト国ノルウエーで条約締結が成功したように、NWCがホスト国日本によって締結実現されることこそ、世界の願いであり、日本の進むべき道ではないか。

(『東京保険医新聞』2013年5月25日号掲載)