「水際作戦」にお墨付き、扶養義務の強化――生活保護改悪案が廃案

公開日 2013年07月05日

第183通常国会で生活保護関連2法案が一転廃案になった。会期末当日の6月26日、参議院で首相問責決議案が可決され、成立の見通しだった重要法案が軒並み廃案になり、国会は閉会した。

廃案になった生活保護(改悪)法案は、生活保護の申請に所定の文書に貯金通帳などの添付を義務付ける一方で、家族・親族に「扶養しない理由」について事実上の説明義務を課すとともに、職場への調査を可能にしていた。これは、申請者の人間関係を無視するものであり、個人の尊厳を踏みにじるものと言わねばならない。

これまで、申請は口頭でも受理しなければならないことが判例で確定し、厚労省の通知でも繰り返し確認されてきたが、現場では様々な理由をつけて生活保護の申請を受け付けないで追い返す、いわゆる「水際作戦」が横行してきた。そのため、申請できずに自殺したり家族まで餓死するという痛ましい事件が全国で起きている。今回の法案は、この水際作戦を合法化し、これまで以上に悲惨な事件を引き起こしかねないものとなっていた。

また、本来患者一人ひとりの病状に応じて医師が処方すべき薬剤を、生活保護受給者であれば強制的に、後発医薬品を選択させようとしていたことも見逃せない。これは医師による治療上の判断を無視するものにほかならないからだ。われわれは医師の立場からもこの法案を容認することはできない。

協会は「生活保護費の削減と制度改悪に抗議する」声明を出し、後発品強要の問題も繰り返し取り上げるなど、運動を続けてきた。

国連が勧告 保護申請手続きの簡素化“恥の意識”の解消を求める

国際連合の「経済的・社会的および文化的権利に関する委員会」では、5月17日に日本の生活保護の申請手続きの簡素化、生活保護につきまとうスティグマ(恥の意識)を解消するための住民教育を行うよう求めている。

今回の法案はこの国連勧告とは正反対の内容であり、保護が必要な人を申請から遠ざけるものに他ならない。日本政府はこの勧告を重く受け止めるべきだ。

いまや労働者の2割にあたる1,000万人、老齢年金受給者の7割である2,000万人が年収200万円以下で暮らしている。困窮者対策は喫緊の課題である。

社会保障の最後のセーフティーネットといわれる生活保護制度を拡充して、国と地方自治体の責任によって、増え続ける生活困窮者に手を差し伸べることが必要だ。

7月21日には参議院選挙が実施される。国内市場を冷え込ませ、賃金低下、雇用不安を深刻化させている政府の経済政策及び雇用政策と、国民に自己責任を押し付けて、生活不安・将来不安をかき立ててきた社会保障削減政策を、国民生活重視の政策へと変換することを、各政党・候補者に求めたい。

 

「これからが正念場 生存権の後退を許さない」

朝日 健二

朝日 健二
(NPO法人 朝日訴訟の会理事)

果たして何人の議員が読んでいたのか。現行生活保護法第24条は「保護の実施機関は…しなければならない」と、主語が福祉事務所になっている。訪れた住民は保護の申請権者であることを大前提に、当人になんら手続き的義務は負わさず、全体の奉仕者の側がしなければならない義務につき、日限を切って定めている。

ところが改正24条は天地逆転。主語を申請権者に置き換え、扶養義務者の扶養の状況などを書かせ、資料添付を義務付ける。最近しばしば犠牲者を出している「水際作戦」の合法化、法制化である。

関係団体の梅雨の最中の連日の請願行動が功を奏し廃案まで追い込むことができた。参院選でも重要な争点になるだろう。

朝日訴訟の時代は朝日茂が生存権保障に大きく貢献した。朝日訴訟を引き継いだ養子(筆者)はダメだったと言われかねなかったところ、少し安堵した。

(『東京保険医新聞』2013年7月5日号掲載)