社会保障制度改革国民会議の報告書――「痛みと我慢」が結論

公開日 2013年08月25日

「社会保障制度改革推進法」(推進法)に基づく「社会保障制度改革国民会議」(国民会議)は、8月6日安倍内閣に報告書を提出した。報告書には医療・介護・年金・保育の全分野にわたって、給付の削減と国民負担増が盛り込まれた。

推進法によれば、社会保障は国民の「自助」と「共助」によって成り立ち、「公助」は補完的な役割を果たすものとされた。この考え方は社会保障に対する国の責任を後退させるものであり、社会保障を解体させるという批判の声があった。

しかし国民会議の清家篤会長が「推進法の基本的な考え方に則って取りまとめるのが私どものミッション」(第16回国民会議、6月24日)とあけすけに述べたように、国民会議は御用学者を集めた官製会議であり、国民代表も医師会代表も参加していなかった。

表 国民会議の社会保障解体プラン
医 療 ○70~74歳の窓口負担 1割→2割
○入院時の食費負担引き上げ
○「ゲートキーパー」制導入で患者の病院受診を制限
○大病院の紹介状なし外来受診に定額負担導入
○保険料アップにつながる国保の都道府県単位化
○負担上限額の所得区分細分化と所得に見合った保険料上限の引き上げ
介 護 ○要支援1・2を保険から外し、区市町村事業に移行
○「一定以上の所得」は利用料アップ
○資産(不動産・貯金等)によって施設入所の低所得者への助成額削減
○特養入所は「中重度者」に限定
○デイサービスの給付を重度予防に「重点化」(給付の制限)
年 金 ○マクロ経済スライドの緩和措置撤廃(賃金・物価の下落以上に、年金額を下げる)
○年金支給開始年齢の先延ばし
○「高所得者」の給付引き上げと年金課税強化
保 育 ○公的責任を後退させた新制度を導入
○株式会社の参入拡大など「待機児童解消プラン」推進

 

病院から地域へ 患者を押し出す

報告書は医療供給体制の変更も求めており、在宅死が尊厳死であるかのような「クオリティー・オブ・デス」なるコトバを持ち出した。高齢社会では、終末期までを看るこれまでの「病院完結型医療」から「地域完結型医療」への転換が急務であると主張し、人的・物的に重装備の急性期病床を削減して、亜急性期病床や長期療養病床、介護施設、自宅などに患者を移動させる方針をさらに進める。

そのために「病床区分をはじめとする医療機関の体系」を法的に定めなおし、都道府県には「病床機能報告制度」を設け、医療機能ごとに地域の必要量を定める「地域医療ビジョン」の策定を求めている。これは医療従事者を含めて、医療資源の「適正配置」を目指すものであり、国保の都道府県運営化も含めて、医療供給体制に対する都道府県の責任と権限を強化するのが特徴だ。

社会保障の市場化弱者の切り捨て

一方、地域に押し出された患者たちはどうなるか。報告書は「病院、病床、施設の持っている機能を、地域の生活のなかで確保することが必要」だとして、「在宅等、住み慣れた地域のなかで患者等の生活を支える地域包括ケアシステムの構築が不可欠」と謳っている。

しかし、在宅での療養を支える要の介護保険は要支援を切り捨て、さらに要介護1と2を圧縮する方向だ。今でさえ不足している在宅サービスや特養ホームへの入所を制限するなど、「重点化・効率化」による削減メニューと利用者負担増ばかりだ。社会保障の給付を削り込み、民間の保険商品やサービス付き高齢者住宅、有料老人ホームなど、社会保障の市場化には手を貸しているが、それらの商品を購入できない人たちの受け皿は準備されていない。

我慢の限界―襲いかかる痛みと負担増

国民会議ではどのような議論がされていたのだろうか。清家会長は「利害関係者を伴う場所では結論が出ない。だからこそ、国民会議において将来世代の痛みが少しでも和らげられるように、われわれの世代がどのような我慢をしたらいいのかということも含めて議論できる」と述べている。

この発言が象徴するように、彼らは現場で働く医療関係者が直面する矛盾や高齢者の暮らしぶりが「我慢の限界を超えている」ことを理解するつもりがないようだ。頭にあるのは「国際競争支援のための大企業減税と公共事業で財政がひっ迫するので、消費増税と社会保障の削減で乗り切る」という課題をこなすことだけだったようだ。

報告書の冒頭に付け加えた「国民へのメッセージ」には「社会保障の専門家として理論的、実証的に論議してまいりました」とあるが、結局は若者にも高齢者にも「我慢と痛みを押し付ける」報告書を作文しただけと言うしかないだろう。「我々の世代」を苦しめる社会と制度が、やがて「将来世代」も苦しめることになるだけでなく、いま若者を失業と低賃金、そして不安に追い込んでいることにどうして気づかないのか。

報告書を受け、政府は「社会保障制度改革大綱」を8月末までに閣議決定し、秋の臨時国会に提出する構えだ。医療供給体制を思い付きで改変し、患者に給付削減・負担増を押し付け、受け皿もない「地域」に押し出し、すべての世代に一層の痛みを強いることになる「一体改革」路線の転換を求める。

(『東京保険医新聞』2013年8月25日号掲載)