【視点】普天間基地は無条件撤去を

公開日 2014年03月05日

沖縄県保険医協会会長 仲里 尚実

普天間基地の県内(辺野古、キャンプ・シュワブ)移設反対は怒涛のごとく広がり、昨年の1月にはオール沖縄の意志となっていました。全県の41市町村長・議会議長が連名で“普天間基地の県外移設”の「建白書」を安倍首相に手渡しました。

参院選でも自民党沖縄県連は“普天間基地の県外移設”と公約して立候補者を当選させました。

「そうは問屋が卸さない」「敵もさるもの」とはよく言ったものです。自民党の石破幹事長は11月、「普天間が動かなければ固定化する」「離党勧告」の脅しをかけ、同党の沖縄県選出の衆参両院議員5人の「普天間基地県外移設」の公約を撤回させ、うなだれる5人を後ろに控えさせ記者会見を行いました。沖縄県民にとっては屈辱的な場面でした。この情景を見て思い出したのは1952年、米軍統治下で初の沖縄立法院議員選挙が実施されたときです。

当選した31人の議員は米軍への忠誠を誓うために起立させられました。1人を除いて全員が立ち上がりました。最後尾で座り続けた男は、トップ当選していた瀬長亀次郎です。「私を選んだ人民に宣誓するのであって、米軍には宣誓しない」と拒否したのです。権力の軍門に下った自民党国会議員たちと、一人で支配者である米軍に立ち向かった男。

情勢は沖縄に“にが世”から“あま世”(伊波普猷)への移行を許しません。仲井真沖縄県知事は、3年前の2期目の知事選挙で、投票1カ月前に突然「普天間基地を県外へ」と方針を転換しました。その主張をしないと当選が危ういと感じたからです。「県外へ」と言うものの「辺野古への移設反対」とは一言も発言しませんでした。

多くの一般国民は沖縄の基地問題に無関心。安保条約は必要だと主張するがその代償としての米軍基地は沖縄に押し付ける。全国紙やNHKは沖縄県民の抗議を“東京目線”で報道する。このような中、もはや県内移設は不可能との共通認識が作られてきました。

沖縄県知事の公約反故の裏切り

ところが昨年末、仲井真知事は振興予算の満額+αの飴と、「5年以内の普天間基地閉鎖」という空手形の安倍首相の口約束で「辺野古埋め立て申請を承認」しました。体調不良で東京の病院に入院していましたが、県民はもちろん沖縄県議会の了解もなく隠密裏に安倍首相と会談、突如公約を反故にして辺野古移設を容認したのです。重要な選挙公約を簡単にひっくり返すことや、本来公約すべきものを隠すこと(秘密保護法)は自民党とその系列政党のDNAでしょうか。

沖縄県民は沖縄選出自民党国会議員と県知事に失望し怒りました。直後の県内での複数の世論調査で、知事の「辺野古埋め立て申請承認」に「反対」が66%、72%にもなりました(本土では同じ調査で52%が賛成)。

名護市長選挙

1月19日投開票の名護市長選では、普天間基地の名護市辺野古への移設に断固NOの稲嶺進現市長が再選しました。前回は1588票の僅差でしたが、今回は4,155票差です。“県外移設”の公約を反故にして県民を裏切り、辺野古移設を容認した仲井真知事を名護市民は許しませんでした。

今回の選挙で特筆すべきは沖縄戦を体験した元県議会議長が自民党を離党して稲嶺市長を応援したこと、観光業界大手の“かりゆしグループ”平良CEOが「キャンプ・シュワブを撤去させ観光ホテルを辺野古に作った方が地元経済・雇用に寄与する。基地と観光は両立しない」と稲嶺候補の決起大会で支持の声を上げたことです。稲嶺市長は「辺野古の海にも陸にも“新しい”基地は作らせない」と公約しましたが、平良CEOは「キャンプシュワブを撤去させ」とまで踏み込みました。
「沖縄は基地で潤っている」との妄想あるいは神話

沖縄は米軍政下の時代、経済の基地依存度は20%ありましたが、現在は5%未満です。北谷(チャタン)・桑江、那覇新都心、金城・小禄(那覇)地区などの基地返還跡地の現在をみれば「返還されたらこれだけ発展する」ことが理解できるでしょう。宜野湾市のど真ん中に市面積の4分の1(東京ドームの103個分)もある普天間飛行場が経済の発展をどれほど阻害しているか想像できるでしょう。

仲井真知事が安倍首相に「140万県民を代表してお礼申し上げ」た3,500億の“振興金”も下がり続けた国庫支出金年額の平均に戻ったに過ぎません。地方交付税と“振興金”などの国庫支出金を合わせた県民一人当たり金額は、沖縄は第7位(2011年)であり、地方交付金だけでみるとトップから第17位(2013年決定額)です(東京都は財政豊かで交付金ゼロ)。決して沖縄が突出しているわけではないのです。それよりも本当に“基地が地元を豊かにする”のであれば、なぜ沖縄は県民所得が最下位なのか、他府県でなぜ「基地誘致運動」が起こらないのでしょうか…。

NHK報道の異常

名護市長選挙後の1月末にNHKスペシャルの放送がありました。大変驚きました。名護市民の辺野古移転賛成派・反対派数人に路上インタービューで語らせた後は、司会者が小野寺防衛大臣だけと問答したのです。名護の、沖縄の民意を尊重すべきとする識者、普天間基地を撤去すべきとする論客は一人も登場せず、小野寺大臣の「沖縄県民に誠意をもって説明し、基地負担の軽減のために普天間基地の辺野古移転を着実に前進させたい」との政府宣伝の垂れ流しだったのです。ここまでやるか!と怒りました。

普天間基地は無条件撤去を

普天間基地は無条件に撤去すべきものであって、沖縄はもとより本土にも移設するものではありません。沖縄は今、日米両政府の「軍事植民地」状態にあります。権力者による植民地支配の常とう手段は、飴と鞭で住民を分断することです。どの県にも国からの交付金・国庫支出金がありますが、沖縄だけが米軍基地押しつけとリンクされています。こんな差別は許されません。

政府は形勢不利と見た投票日前から、「辺野古移設は国が決めることだ」と、名護市民の意見など無視するとともに、この国の民主主義を否定するアナウンスをしました。ところが今新しい情勢が生まれつつあります。オリバー・ストーン、マイケル・ムーア、ノーム・チョムスキー氏ら著名人が呼び掛けた、「辺野古への移設反対」の声が急速に世界に広がっているのです。2月1日現在で10カ国2千人が賛同の署名をしています(新聞報道)。

今後機動隊も投入した移設作業の強行と流血の事態も予想されます。普天間基地撤去と秘密保護法廃止の闘いはまさにこれからです。情勢が沖縄に休息を与えないのなら、闘い続けるしかありません。正念場は続きます。東京保険医協会会員の皆様に、沖縄の闘いへの支援と連帯を心から訴えます。

(『東京保険医新聞』2014年3月5日号掲載)