【視点】10月実施のマイナンバー制度 どう対応すべきか

公開日 2015年10月05日

151005_03白石孝氏

白石 孝
(共通番号いらないネット 代表世話人)

 10月5日、住民登録をしているすべての日本人と在留外国人に、新たな個人番号が付けられる。
 その日が近づくにつれ、政府の動きもマスコミの報道も慌ただしさを増してきた。その典型が2017年4月実施とされる消費税率10%への引き上げに係る軽減策として、個人番号(マイナンバー)カードを使用する新たな動きだ。こんな無茶苦茶な構想があっという間に浮上してくる。番号法の本法がまだ完全実施されていないにも関わらず、民間分野で個人番号を使用するという大きな変更を柱にする改定法が9月3日に可決されたが、その国会審議でも消費税軽減策に番号カードを使用しようという話しは全く出ていなかった。

マイナンバーとは

 はじめに番号制度のしくみを簡単に説明しておく。
 番号の対象者は、住民登録して日本に住んでいる人すべてで、選択権や拒否権はない。住基ネットの11桁の住民票コードから12桁の番号を組成し、「通知カード」によって、各人に通知される。住基ネットとの違いは、原則として一度付けられた番号を一生涯変えられない(盗まれ悪用される場合は変更可)こと、カードなどの券面に番号を掲載する「見える」番号にすることだ。
 通知は10月中旬から11月下旬にかけて世帯単位の簡易書留で日本郵便が配達する予定だ。昼間の不在世帯をはじめ、住民票と異なる場所に住んでいる世帯にも届かない。また、DVや児童虐待の被害者で自治体に避難先を届けていない場合には、加害者側に個人番号が知られることも考えられる。11月いっぱいで果たして配達が完了するかの保証もなく、届く、届かない両方でのトラブルが各所で発生するだろう。

個人番号カードの取得は任意/「一括申請」に要注意

 通知カードには、個人番号カードの申請書が添付されている。個人番号カードは任意であり、持たなくても税や社会保障関係の手続きの際にも困らないが、政府は交付拡大にやっきとなっている。紙の申請だけでなく、スマホ等によるWeb申請も採り入れ、さらには企業や学校挙げての一括申請方式も打ち出した。国家公務員には順次全員に交付、自治体にも職員証としての使用を働きかけている。2016年1月から3月で1,000万枚、さらに17年3月までで500万枚、計1,500万枚の無料交付予算を盛っているほどだ。

2020年に向け 利活用ロードマップ

 5月下旬から新たな動きが急浮上した。それは自民党部会案に始まる「マイナンバー制度利活用ロードマップ」に全容が示され、同月29日の産業競争力会議、6月30日の閣議で政府方針に位置づけられた2020年を「ターゲットイヤー」とする計画だ。
 前記した国家公務員証や地方公務員証、さらには民間企業社員証として使用するほか、健康保険証、クレジットカード、キャッシュカードなどにも使用するという。
 1,500万枚無料交付以降はこのワンカード化により取得率を上げ、19年3月には8,700万枚を目標にしている。この数字は経済活動人口の8割を超え、そうなるとカード義務化法案が出てくる可能性もあり、指紋や虹彩などの生体情報も採り入れる。2020年オリンピックの入場時にはカードや生体情報での本人確認が実施されるだろう。

個人情報が流出 民間分野で利用規制

 マイナンバー制度はこのように番号とカードという2つの異なる要素の一体化という仕組みになっているが、世界を見ると官民分野共通利用されている国、とりわけアメリカや韓国では大量の個人情報流出事件が起こり、詐欺や成りすまし犯罪の温床になり、民間分野での利用を規制したり、個別番号に切り替えたりという方向に転換しつつある。
 ICチップ搭載のカードに指紋などの生体情報を入れている国はほとんどないばかりか、イギリスでは2006年から13年にかけてDNA情報を含む生体情報入力の国民IDカード計画を、2010年に連立政権を組んだ保守・自由党が廃止法を作り、集めつつあった生体情報を廃棄しているほどだ。
 先進G8諸国ではどの国にもない番号・カード一体の制度であり、日本だけが個人の尊厳や人権をないがしろにする道を歩もうとしている。

個人番号カードを自ら求めない

 この危険な制度にどう立ち向かうのか。まず、個人番号カードを自ら求めないことだ。政府は「1枚で用が足りる」と盛んに宣伝しているが、日常的に使う価値もない無意味なカードを持つ必要はない。各種手続きでは通知カードと免許証などで十分対応できる。会社や学校挙げての一括申請はさせないように意見を出してほしい。消費税の軽減対策にカードを使うという愚の骨頂の政策にはNOを言おう。

医療番号を導入し マイナンバーとの連動で「医療費削減」

 医療分野に関しても「重複検査・投薬から解放され一貫した医療・介護サービス」ということで、18年度からマイナンバーと連動した医療番号制度導入やカルテ電子化を進めようとしている。
 「1兆円の医療費削減」などと謳っているが、集められた医療情報を匿名化したビッグデータを製薬企業や大学に開放し、新薬開発に活用したいというのが本音だろう。9月3日に成立した改定個人情報保護法ではビッグデータ活用を目的に掲げ、狙いは業界への提供といえよう。
 10月5日に個人番号が付けられるが、それで諦めるのではなく、粘り強くこの制度の見直しを求める世論を拡げていくことが大切だ。

◆著者プロフィール

しらいし・たかし 1970年代後半から国民総背番号制に反対する運動に参加。現在、「共通番号いらないネット」の代表世話人を務める。共通番号いらないネットはマイナンバーに係るさまざまな情報を提供している。10月3日には「マイナンバー(共通番号)10月通知」の延期を求める、初めての野外集会とデモ行進を開催した。

(『東京保険医新聞』2015年10月5日号掲載)

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