【視点】TPP・原発推進と連動したJA・非営利共済事業解体の策動

公開日 2015年04月25日

高橋 巌(日本大学生物資源科学部教授)

日本大学生物資源科学部教授 高橋 巌


JA解体は共済事業への攻撃の完成系

2015年4月16日現在、国会では「農協(JA)改革」に関連する法案が審議されている。同法案は、2013年9月の規制改革会議農業WGにおける「農協のあり方」の提起により、2014年5月まとめられた「農業改革に関する意見(以下「意見」)」の内容を一部修正し作成されたものである。

この「意見」は、①全国農協中央会(全中)等中央会制度の廃止、②全国農業協同組合連合会(全農)の株式会社化、③単位農協の専門化・健全化推進(信用事業の信連移管、共済事業の代理業移行)、④組織形態の弾力化(組織分割・再編や株式会社、生協、社会医療法人、社団法人等に転換)、⑤理事会見直し(理事への外部者登用等)、⑥准組合員事業利用規制(正組合員の2分の1に規制)などで構成されており、まさに戦後農協法の全面否定と「農協解体」提案にほかならないものであった。

これは、小泉政権等による新自由主義的・市場原理主義的な政策が中心となった1990年代以降、20年以上もの間一貫して執拗に展開されてきた、アメリカの対日要求(在日米国商工会議所「意見書」等)に沿った共済事業の保険とのイコールフッティング=自主共済規制など、協同組合・非営利組織に対する攻撃の完成形というべきものである。

官邸主導の根拠なき「全中=農協潰し」

このあと、一時激しいせめぎ合いはあったが、2015年2月9日に、①全中は一般社団法人に移行するが、②都道府県中央会は連合会等に移行し中央会機能の実質的な「担保」を確保、③全農の株式会社化等は自主的に判断、④准組合員規制は実質棚上げ(准組合員の利用実態を調査し、再度検討する)などを骨子とする政府・全中間の「決着」がなされた。このままでは、火種を残した状態でこの法案が可決しかねない情勢にある。

「意見」と法案の基本には、「全中の指導や監査が単協の自由度を縛って」おり、「農業・農村・農業者の所得向上を阻害している」という実態を無視した論理がある。もとより、WGが自ら行った現地ヒアリング等でもその種の話は全く出ておらず、しかも、全中解体でなぜ農業・農村の所得が向上されるのか、その説得力ある根拠すら全く示されないなかでの推進だった。

筆者は、現在の農協組織や事業のあり方にも種々の問題があり、農協改革は推進すべきと考えている立場であるが、今回の「改革」は、「まずは農協のナショナルセンター=全中を解体する」とするなど、異様きわまる「官邸主導」のトップダウンにより推進された「全中=農協潰し」だったとしかいいようがない。

協同組合への国家による支配介入

もとより農協は協同組合であり、協同組合原則により運営される自主的な組織である。国家や大企業などがその組織再編に強権的に口を出すことなど、「先進国」にあるまじき国家の支配介入である。実際に、ICA(国際協同組合同盟)会長が来日し意見表明するなど、国際問題にまで発展している。

また、日本の総合農協は、農業者を組合員とする職能組織であると同時に、「准組合員制度」などにより地域に開かれた協同組合組織でもある。地域の「農」を支え安全な「食」を地域に提供するとともに、グローバル化で不安定化する金融市場の下、総体的に堅実な運用を図り資金や生活保障を担保する信用・共済事業のほか、医療福祉事業・活動を行うなど、市民生活のセーフティネット再構築に対応しうる事業・活動を展開してきている。

今回の規制改革会議委員には、多国籍的事業展開を図る大企業関係者が数多く参加しており、農協の事業・組織再編を自らのビジネスチャンス拡大という利害に直結させた提言ではなかったか、とする批判も根強い。

TPP反対・脱原発を掲げるJAへの攻撃

現在、秘密裏に交渉が進むTPPが高度な水準で妥結すれば、農家組合員・地域住民らの果実である農協系統金融資産が投機的国際市場に晒される危険が高まり、共済事業も解体的危機に陥るなど、今後の日本を激変させる事態がもたらされかねない。一方農協系統は、TPPに一貫して反対するとともに、東京電力原発事故の悲惨さと長期的な農業への影響を踏まえ、「脱原発」の方向を大会決定している。

つまり今回の「農協改革」は、TPPに反対し脱原発を組織決定する日本最大の民間団体・全中=農協系統組織を、政権が強権的に支配・解体しようとしたことにこそ、その本質があるのである。
幅広い連携で市民の世論形成を

こうしたなかで、協同組合陣営のみならず非営利組織・共済事業組織等は広く連携し、広範な「たすけあい」のネットワークを強化する必要がある。そして、いかに政権や主流メディアの世論誘導を立ち切り、現在の「先進国」にあるまじき異常な流れに対抗する「強く、かつしなやかな市民の世論」をつくるのかが、問われているのである。

(『東京保険医新聞』2015年4月25日号掲載)