国民皆保険制度を崩壊させる非正規雇用の増加

公開日 2014年03月25日

国民皆保険制度は「いつでも、どこでも、だれでも」が安心して医療に掛かれるとされているが、現実には健康保険料を支払えない人々が増え続けている。また、保険料を支払えない者にとって、窓口本人3割負担はさらに医療へのアクセスを阻害する障壁になっている。このまま非正規雇用が増え続ければ、国民皆保険制度だけでなく、年金や雇用保険など日本の社会保障制度の根幹をも揺るがす事態になりかねない。

非正規雇用の実態

図1 雇用形態別の雇用者

パート、アルバイト、派遣労働者、契約社員などの雇用者は「非正規雇用者」と総称される。総務省が実施している「労働力調査」(2014年1月分)によれば、雇用者数(役員を除く)は5,198万人(正規の職員・従業員数は3,242万人、非正規の職員・従業員数は1,956万人)だ。10年前の同調査(2004年12カ月平均値)は、雇用者数4,975万人(正規の職員・従業員数は3,410万人、非正規の職員・従業員数は1,564万人)であった。10年間で正規雇用は168万人減少し、非正規雇用は392万人増加した。現在、非正規雇用が雇用者数の37.6%を占め、3人に1人以上が非正規雇用で働いている。非正規雇用1,956万人の内訳は、パート942万人、アルバイト403万人、派遣社員113万人、契約社員295万人、嘱託120万人、その他83万人となっている(図1)。非正規雇用者が急増している最大の要因は何だろうか。

「人件費削減」で非正規雇用が増加

厚労省が実施した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2010年)によれば、「正社員以外の労働者の活用理由」として、「賃金の節約のため」43.8%、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」33.9%、「賃金以外の労務コストの節約のため」27.4%との回答が続いており、企業が人件費削減のために、非正規雇用を増やしてきたことがわかる。非正規雇用は賃金を低く抑えられるだけでなく、雇用保険料・社会保険料を企業が負担しなくても済む場合も多く、労務コストの節約につながる。

就業形態が多様化し、正規雇用ではない雇用形態を求める人々はいる。しかし非正規雇用が人件費削減のために増え続け、ワーキングプア(働く貧困層)の社会保障制度(雇用保険、公的年金、健康保険など)への非加入が社会問題となっている。

非正規雇用の健康保険

「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2010年)から、就業形態別の健康保険の適用状況をみると、契約社員70.8%、出向社員39.2%、パートタイム労働者39.4%となっている。派遣労働者の健康保険については「はけんけんぽ」が2002年5月1日に設立され、派遣労働113万人の内、30%の34万人が加入している。「はけんけんぽ」の加入資格は、雇用契約が2カ月を超え、勤務日数と勤務時間が派遣会社の一般社員のおおむね4分の3以上である場合である。「はけんけんぽ」への加入資格のない派遣労働者は、自分で国民健康保険に加入するか、配偶者や親の被扶養者になっているものと思われる。また、親会社が派遣会社を設立し、派遣労働者を親会社が運営する健康保険組合に加入させるケースもある。しかし、この場合も加入資格を満たさなければ、国民健康保険に加入するしかない。

国保加入者でも「非正規化」進む

国民健康保険実態調査報告(2012年度/厚労省)によれば、国保加入世帯主の職業は、「無職」43.4%、「被用者」35.2%、「自営業」14.7%となっており、「被用者」の割合が「自営業」を大きく上回っている。世帯主の年齢階級別にみると、「被用者」の割合は20~24歳で65.2%、25~29歳で72.1%、30~34歳で66.7%となり(図2)、若い世代で「被用者」の割合が突出している。この数値から、若い世代の非正規雇用者がかなりの割合で、国保に加入していることが推測できる。

図2 世帯主年齢階級別、職業別、世帯数割合

世帯主が「被用者」の1世帯当たりの平均所得は約186万円で、国民年金と国民健康保険の保険料を支払うにはあまりに低額だ。さらに国民健康保険料の収納率を比較すると、25歳未満が59.1%、25歳~34歳が72.7%となっており、45歳以上の収納率と比較して極端に低くなっている。非正規雇用の増加が低賃金の労働者を生み、社会保険料を支払うことができない若者を大量に産み出しているのだ。
命と健康を優先する社会へ

命と健康を粗末にする社会に未来はない。「人件費の削減」や「国際競争力の強化」を叫び、非正規雇用を拡大し続ける路線からの転換を求めたい。

(『東京保険医新聞』2014年3月25日号掲載)