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【視点】過労死を促進する「残業代ゼロ法案」の危険性

公開日 2015年04月15日

弁護士/過労死弁護団全国連絡会議幹事長・過労死防止全国センター共同代表
川人 博

  弁護士/過労死弁護団全国連絡会議幹事長・過労死防止全国センター共同代表 川人 博

4月3日、安倍内閣は、いわゆる「残業代ゼロ法案」を閣議決定し、国会に提出しました。今開かれている通常国会で成立させる方針です。今回の労働基準法改正案について、政府は、賃金を時間ではなく成果に応じて支払うことで新しい働き方を創出するものである、と説明しています。しかし、その本質は、働く者の過重労働を促進し過労死の一層の発生をまねくものと言わざるを得ません。

法案内容のうちとりわけ危険なのは、①高度プロフェッショナル労働制(特定高度専門業務・成果型労働制)の新設、②企画業務型裁量労働制の拡大の2点です。

「残業代ゼロ法案」の危険な中身

残業代ゼロ 医師も対象の可能性

第1の高度プロフェッショナルとしては、ディーラー、アナリスト、コンサルタントなどが挙げられていますが、実際にはかなり広い範囲の業務が対象とされ、医師もその対象となる可能性があります。年収1,075万円以上の労働者とされていますが、いったん導入されると、どんどん引き下げられる危険性があります。過去に日本経団連は、労働時間規制撤廃の範囲として年収400万円以上の労働者を対象にすると提言しています。

労働基準法の規定 適用されず

政府や財界によって時間でなく成果で賃金を支払うと宣伝されていますが、法案をよく見れば、成果に応じて賃金を支払う制度にもなっていません。

要は、残業代を一切支払わない固定賃金制度にするということです。そして、労働基準法の労働時間の原則(1日8時間、週40時間、これを超える場合には労使協定=サブロク協定が必要)、休憩時間の原則(6時間で45分、8時間で60分)、法定休日の原則(最低週1回)などの規定は、一切適用されないことになります。

人類社会の進歩に対する挑戦

これでは、18世紀末の産業革命の後、一切の労働時間規制がなく1日16時間以上も働かされた時代に逆戻りと言っても過言ではありません。人類は、産業革命後の剥き出しの資本主義に対して、労働時間の規制を100年、200年かけて、一歩一歩進めてきました。日本では、明治維新後「富国強兵、殖産興業」の掛け声の下、横暴な資本主義が発達しましたが、戦後日本国憲法の下で、労働基準法による労働時間規制、残業賃金確保のルールができました。

今回の高度プロフェッショナル労働制は、こうした歴史的な成果を根本から破壊するものであり、人類社会の進歩に対する挑戦ともいうべき性格をもっています。

裁量労働制は長時間労働の温床

第2の企画業務型裁量労働制の拡大も、働く者のいのちと健康にとって、極めて危険な内容です。

裁量労働制とは、いまでも、新技術の研究開発、記者、編集者、プロデューサー、デザイナー、事業活動の中枢にある労働者など一部の労働者に導入されており、その対象者に関しては、何時間働いたとしても、実労働時間とは関係なく、労使協定で定めた「みなし労働時間」のみ就労したと評価する制度です。現状でも、これらの業務に携わる労働者の長時間労働の温床となっており、過労死も多数発生しています。

裁量労働制は数百万人に悪影響

今回の法案では、この対象労働者に、法人を相手にする営業職までも含むことにされるなど、その範囲が著しく拡大されます。いまの日本で、営業職で法人を担当しないという人は、ほとんどいません。この裁量労働制に関しては、年収要件はありません。したがって、法案が通れば、この点だけで、すぐにでも、数百万人の労働者が悪影響を受けると想定されます。

業務内容や業務量を決めるのは「使用者」

政府・財界は、ホワイトカラー労働者には、「裁量」のある「新しい働き方」がふさわしいと言います。しかしながら、ホワイトカラー労働者の業務内容や業務量を決めるのは、使用者です。過大な業務量を与えられ、自分の「裁量」で仕事をするように言われても、長時間の労働で対応するしかないのです。

「残業代ゼロ法案」 廃案は国民の願い

昨年6月に過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が議員立法で成立し、11月から施行されました。この法律成立の前後を通じて、過労死を防止するための全国での活動は、かつてない広がりをみせています。今回の労働基準法改悪は、過労死をなくすという国民的な願いに逆行するものであり、必ず廃案にしなければなりません。

(『東京保険医新聞』2015年4月15日号掲載)