骨太の方針2015「社会保障の産業化」――命より営利を優先

公開日 2015年07月15日

6月30日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」(以下、骨太方針2015)は、「アベノミクスによって『デフレ脱却・経済再生』と『財政健全化』は双方ともに大きく前進してきた」と、自らの経済・財政政策を自画自賛している。しかし、アベノミクスは、株価の上昇や大企業の収益拡大をもたらしたものの、2014年の実質経済成長率をマイナス0.9%と落ち込ませ、実質総雇用者所得も減少させた。これではとても経済再生で「大きく前進した」とはいえない。

アベノミクス格差拡大に拍車

2015年4月の消費税8%への増税が庶民生活を直撃している。一方で、年金実質引き下げ、介護報酬大幅削減、生活保護費削減、高齢者の窓口負担引き上げ等の社会保障の連続改悪により、大企業や富裕層などアベノミクスの恩恵を受ける者と一般国民との格差がますます拡大している。

この格差にさらに拍車をかけようというのが「骨太方針2015」だ。

社会保障費を狙い撃ち

社会保障費を毎年3,000億~5,000億円カットすることで、アベノミクス第二の矢である「機動的な財政出動」でばら撒かれた軍事費と大型公共事業の拡大で膨張した歳出を抑制しようとしているのだ(社会保障費カットのメニューは稿末資料を参照)。

社会保障費を狙い撃ちした「歳出改革」は、年8,000億円から1兆円と見込まれている自然増分を3割から5割まで削り込むものだ。これを許せば、毎年2,200億円の自然増を削減して「医療崩壊」「介護難民」を引き起こした小泉構造改革以上に、深刻な被害を国民にもたらすことになる。

「社会保障の産業化」を打ち出す

さらに、公共サービス分野を『成長の新たなエンジン』と位置づけて、「社会保障の産業化」を打ち出したことは重大である。これは「歳出削減」で削られた社会保障分野を営利企業が肩代わりして、利益を上げる仕組みを作るというものだからだ。

すでに要支援者の介護保険外しや、特別養護老人ホームの入所対象者から要介護1・2の高齢者を除外するなど、強権的な公的給付外しが始まっている。

自前で民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅に「入居」して、介護サービスを利用しろ、というのが政府の方針だ。しかし、特別養護老人ホームの待機者が52万人と報じられているように、収入が少ない高齢者の多くは必要な施設やサービスを利用できず、地域に取り残されている。

独り暮らしの高齢者が600万人を超え、その半数、およそ300万人が生活保護水準以下の年金収入しかないなかで、「年金が足りず医療や介護サービスを安心して受けられない」という訴えが相次いでいる。「社会保障の産業化」は、このような事態に拍車をかけ、「介護難民」「漂流老人」をさらに生み出すことになる。

度重なる庶民増税と法人税減税

一方、「歳入改革」では、2017年4月からの消費税10%引き上げとマイナンバー活用による税・保険料の徴収など、庶民から取り立てる計画を様々並べる一方で、「成長志向の法人税改革」と称して、更なる法人税減税を「できるだけ早期に完了する」と明記。大企業の儲けを優先する姿勢が露骨だ。利益拡大を続ける大企業や富裕層の優遇税制を見直して、所得の再分配を進めようという姿勢は全くみられない。

「歳出改革」軍事費こそ見直せ

防衛費についても、「実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備する」として、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」及び「中期防衛力整備計画」に基づき、2014年度から2018年度の5年間で25兆円をつぎ込もうとしている。この軍事費こそ「歳出改革」の筆頭にあげられるべきだ。

安倍政権は「骨太の方針2015」と同時に、「日本再興戦略改定2015」、「規制改革実行計画」を閣議決定した。これらは社会保障費の徹底的な削減と規制緩和による「営利化」、消費税再増税を前提とした法人税減税と軍事費拡大の方針を掲げる反国民的な内容だ。経済は人間の幸福のためにある。軍事費の拡大や企業の利益のために、人間の命と健康が左右されては本末転倒である。

資料:骨太の方針2015(医療・介護・保健分野)

医療等分野のICT化の推進等

  •  遠隔医療の推進
  •  データのデジタル化・標準化と地域医療情報連携等の推進
  •  医療介護の質の向上、研究開発促進、医療介護費用の適正化などの医療介護政策へのデータの一層の活用
  •  民間ヘルスケアビジネス等による医療等分野のデータ利活用
  • 関係機関が連携して治験を実施できる臨床開発の環境整備⇒国立高度専門医療研究センターの疾患登録システム等を活用
  • 日本の優れた医療を提供可能な国内医療機関に係る外国人患者向け広報・集患の取組

インセンティブによる政策目的の達成

  •  後発医薬品の利用率向上など保険者の努力に応じて、負担金や交付金の額を増減
  •  要介護認定率や一人当り給付費の地域差を分析し、保険者の給付費適正化の強化のため、制度的な対応も含め検討
  •  国民一人ひとりによる疾病予防、健康づくり、後発医薬品の使用、適切な受療行動を更に促進
  •  健康づくり等を行う個人にヘルスケアポイントを付与等
  •  個人の健康管理に係る自発的な取組を促すセルフメディケーションを推進
  •  診療報酬・介護報酬を活用して病床再編、投薬適正化、残薬管理、医療費の地域差を是正

医療・介護提供体制の適正化

  •  地域医療構想と整合的に、都道府県ごとの医療費適正化計画を策定。以下の取組を通じて一人当たり医療費の差の半減目指す
  1.  都道府県別の医療提供体制の差や将来必要となる医療を「見える化」し、病床機能の分化・連携を推進
  2.  療養病床は病床数や平均在院日数の地域差が大きいことから、入院受療率の地域差縮小で地域差を是正
  3.  慢性期の医療・介護サービス提供体制は、医療の内容に応じて制度を見直す
  4.  医療・介護を通じた居住に係る費用負担の公平化
  5.  地域医療構想との整合性や偏在等是正などの観点から医師・看護職員等の需給を検討
  6.  外来医療費の地域差分析と是正、重複受診・重複投与・重複検査等の適正化
  •  在宅や介護施設等における看取りも含めて対応できる地域包括ケアシステムの構築
  •  人生の最終段階における医療の在り方の検討
  •  かかりつけ医の診療報酬上の対応や外来時の定額負担を検討
  •  看護を含む医療関係職種の質評価・質向上や役割分担の見直しを検討
  •  以下の取り組みによって、都道府県による病床再編や地域差是正の努力を支援
  1.  地域医療介護総合確保基金のメリハリある配分を検討
  2.  高齢者医療確保法61第14 条の診療報酬の特例(医療費適正化の必要から、他の都道府県と異なる診療報酬の設定を認める特例)の活用の在り方の検討
  3.  機能に応じた病床の点数・算定要件上の適切な評価、収益状況を踏まえた適切な評価など、2016年度診療報酬改定、2018年度診療報酬・介護報酬同時改定における対応
  4.  都道府県の権限整備の検討

公的サービスの産業化

  • 保険者のデータヘルスの取組では、健康増進、重症化予防を含めた疾病予防、重複・頻回受診対策、後発医薬品の使用促進等に係る好事例を強力に全国に展開
  • 社会保障に関連する多様な公的保険外サービスの産業化を促進
  • 医療関係職種の活躍促進、民間事業者による地域包括ケアを支える生活関連サービスの供給促進
  • 介護サービスは事業経営の規模拡大やICT・介護ロボットの活用等で生産性向上を推進
  • マイナンバー制度を活用し、医療保険のオンライン資格確認の導入、医療や介護の間の情報連携促進、医療等分野の研究開発促進

負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化

  • 医療保険高額療養費や後期高齢者の窓口負担の在り方を検討
  • 高額介護サービス費制度や利用者負担の在り方等を検討
  • 現役被用者の報酬水準に応じた保険料負担の公平を図る
  • 医療保険、介護保険ともマイナンバーの活用で金融資産等を考慮した負担の仕組みを検討
  • 公的保険給付の範囲や内容を適正化し、保険料負担の上昇等を抑制
  • 軽度者に対する生活援助サービス
  • 福祉用具貸与等やその他の給付の見直しや地域支援事業への移行を検討
  • 医薬品や医療機器等の費用対効果を、2016年度診療報酬改定で試行的に導入。速やかに本格的な導入を目指す
  • 生活習慣病治療薬等について、処方の在り方等を検討
  • 市販品類似薬の保険給付見直しを検討

薬価・調剤等の診療報酬及び医薬品等に係る改革

  • 後発医薬品数量シェアの目標値を2017年央に70%以上、2018年度~2020年度末の早い時期に80%以上
  • 成長戦略に資する創薬に係るイノベーションの推進
  • 市場実勢価格を踏まえた適正化と薬価改定の頻度を検討
  • 2017年度診療報酬改定では、服薬管理や在宅医療等への貢献度による評価や適正化を行い、患者本位の医薬分業の実現に向けた調剤報酬の見直しを行う。

(『東京保険医新聞』2015年7月15日号掲載)