【視点】廃棄物処理とアスベスト 実態と環境リスク

公開日 2015年09月15日

井部 正之  (ジャーナリスト)

井部 正之(ジャーナリスト)

 

はじめに

日本では年間約4,500万トンの家庭ゴミなど一般廃棄物、約3億8,000万トンの産業廃棄物が発生する。それらは収集され、利用可能なものはリサイクルに回され、そうできないものは焼却をはじめとする処理後、最終処分場に埋め立てられる。

そうした廃棄物処理にどのような課題があるか。また、アスベストが廃棄物処理にどのような問題をもたらすか概略を示す。

廃棄物規制の流れ

日本における廃棄物規制のはじまりは、1900年に制定された「汚物清掃法」にさかのぼる。当時、いまでいう産廃の規制は存在せず、産廃は海や川、大気への「たれ流し」だった。高度経済成長期に公害問題が起き、ようやく「廃棄物処理法」が制定される。

ところが、同法はこれまで海や川にたれ流しにした産廃を陸地に埋め立てさせるようにしたにすぎなかった。そのため80年代以降に廃棄物問題が社会問題化する。

90年代、香川県豊島の不法投棄問題で住民が県を相手に公害調停を起こし、県が一定の責任を認め、現場の処理費用を負担する方針を明らかにした。これが転機となった。このころから廃棄物処理法は改正を重ね、罰則強化が続く。

現在では不法投棄は法人に最大3億円の罰金、個人にも5年以下の懲役または1,000万円の罰金だ(併科もあり)。また、不法投棄・不適正処理現場の公的処理制度においては、自治体側も費用負担が求められることもあって、自治体側の尻に火が付き、不法投棄・不適正処理対策はある程度進んだ。

一方、違法処理を繰り返していた産廃業者がリサイクル業者に転じ、「怪しいリサイクル」をすることも続いている。石原産業が公害の時代にたれ流しにしていた廃硫酸をリサイクルと称して山に百万トン余り捨てた「フェロシルト事件」が有名だ。

上流の建物解体問題

アスベスト(石綿)は過去に約1,000万トン輸入され、建築材料をはじめ、様々な製品に利用されてきた。その種類は3,000以上といわれる。もっとも利用が多いのが建材であり、1995年の調査では建材利用が9割超だった。

アスベストが使用された建築材料には、吹き付け材や保温材、断熱材など飛散性が高いとされるものに目が行きがちだが、ビルなど鉄筋・鉄骨造の建物以外のごく普通の家屋でも屋根、外装材、天井材、壁材、床材、煙突などありとあらゆる場所で使われている。

アスベストが使用された可能性のある鉄筋・鉄骨造の建物は約280万棟あり、木造や戸建て住宅、公共建築物では約3,300万棟に上る。いずれもアスベストの調査も完全には実施されていない。

現在、アスベストが使用された建築物の解体ピークにさしかかっており、今後20年ほどの間に年間6~10万棟が解体されると予測されている。

ところが、解体前にアスベストを除去する工事で、アスベストを外部に飛散させたりする違法工事が相次いでいる。2011~2013年度の3年間では16.3%の飛散事故が起きていたことが厚生労働省の調査で明らかになっている。国土交通省の調査では68%が不適正との報告もある。とくに東京や大阪をはじめ、学校でアスベストを飛散させるなど、生徒らに曝露させた可能性もある深刻な事件が相次いでいる。

学校でさえ、こうした状況なのだ。全国各地でアスベストが飛散し、住民が曝露する事件が起こっている。今後、住民のアスベスト被害も懸念される。

「上流」の建物解体が不適正であれば、「下流」の廃棄物処理にも悪影響が出る。アスベストが除去されて入って「ない」はずのコンクリート廃棄物にアスベスト建材が混入し、それが破砕されてリサイクルされてしまう事例も多い。

遅れた規制 アスベスト廃棄物

アスベスト廃棄物は1987年に学校の吹き付けアスベストなどが問題になった「学校パニック」、1995年の阪神・淡路大震災でも問題化したが、「特別管理廃棄物」との指定がされただけで、飛び散らないようにせよといった程度で規制が遅れてきた。2005年には尼崎市のクボタ旧工場周辺で住民のアスベスト被害が明らかになる「クボタショック」が起こった。だが、いまだに廃棄物処理施設ではアスベストの測定義務すら存在しない。こうした構造的な問題もアスベスト廃棄物処理をずさんにしている。

通常の廃棄物処理でさえ不適正な事例が相次いでいる以上、災害時にきちんとした対策ができるわけがない。東日本大震災ではアスベスト除去や廃棄物処理で不適正事例が相次ぐことになった。
処方箋はあるのか

廃棄物処理については、すでに規制や取り締まりの強化、事業者の育成を続けた結果、一定の成果が得られている。これを続けていくしかない。

アスベスト対策においては、現状は廃棄物処理に比べて規制・罰則がきわめて緩い上、監視・指導行政による取り締まりも甘い。きわめて悪質な違法工事があっても罰則すらろくに適用されない。ずさんなアスベスト除去工事において労働安全衛生法による罰則適用は過去に1件のみ、大気汚染防止法ではゼロだ。また、事業者の育成も不十分である。

だが、アスベスト対策についても廃棄物対策を手本に改善すればよいだけだ。すでに道は示されているのだが、国や監視行政がなかなか動かない状況にある。その背中をどれだけ押して対策の実施に踏み切らせることができるか。それが今後の被害者を減らすカギである。

◆参考:アスベストとは

耐熱性、絶縁性、保温性に優れ、断熱材、絶縁材、ブレーキライニング材などに古くから用いられ、「奇跡の鉱物」と重宝されてきた。しかし、高濃度長期間暴露による肺がんや中皮腫などの健康被害リスクが明らかになったことで、アスベスト含有製品の生産や建設作業に携わっていた従事作業者の健康被害が問題となり、「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった(Wikipediaから引用)。

(『東京保険医新聞』2015年9月25日号掲載)