協会 警察庁懇談・国会質問を実現――車いす利用者の運転免許 移動格差解消に一歩

公開日 2016年11月15日

161020国会行動_池内さおり衆院議員
国会議員に要請する細田理事(右)
161026警察庁レクチャー
警察庁レクチャー(宮本徹議員紹介)
161104国会行動_松原仁衆院議員
右から松村仁議員、須田副会長、神村氏

 協会では国会会期中に毎月議員会館を訪問し、医療・介護を中心に陳情活動を実施しているが、本年は細田悟理事を中心に「車いす利用者の移動」について継続して取り上げてきた。以前からこの問題に取り組む神村浩平氏((株)ニコ・ドライブ代表取締役/自身も下肢障がい者)とともに、車いす利用者の免許取得環境改善を訴え、一定の成果を得ることができた。この間の取り組みと国の動きを報告する。

車いす利用者の免許取得はハードル高い

ハンドコントロール実装車 下肢障がい者が運転免許を取得するためには手動式アクセルブレーキに対応した教習車が必要だ。
 ところが、それらを配備した教習所は全国1,300校のうち13校に限られ、残りの教習所では数十万~200万円程度の費用をかけて改造した教習車を自ら持ち込まなければならない。あるいは、「バリアフリーに対応していない」としてそもそも受け入れを断る教習所もあり、免許取得を断念するケースが少なくない。せっかく就職・就学しても通勤・通学の手段がない状況が、障がい者の社会参加を阻んでいる。

 協会では3月から国会行動のたびにこの問題を取り上げ、面談した議員・秘書へ趣旨説明を行った。
 細田理事と同行した神村氏は16歳のときバイクの事故で脊髄損傷、車いす生活となった。社会人生活を経てアメリカへ留学し、海外の充実した障がい者施策を体感。帰国後、車の改造をまったく必要としない、安価かつアタッチメントの手動運転装置を開発し、2013年に㈱ニコ・ドライブを起業した。「移動格差の解消」をめざす活動の様子はNHKニュースウォッチ9でも放映されている。

 要請では、実際に神村氏が自ら運転席へ乗り込む動画も紹介しながら、下肢障がい者にとって車が社会に出て行く有用なツールであることや、教習所環境整備の遅れと対策の必要性について理解を求めた(紹介した動画は下記参照)。
 10月20日には、教習所を管轄する内閣委員会、公共交通機関を管轄する国土交通委員会の山添拓参議院議員らと面談した。
 10月26日は宮本徹衆議院議員(日本共産党)の紹介で警察庁レクチャーが実施され、警察庁から「4月に施行された障害者差別解消法を踏まえた新通達の発出」について報告を受けた。新しい通達では、高額な経費を要する「身体障害者用教習車両」に加えて比較的安価な「取り付け部品」についても明記され、今後教習所での取り組みが順次進むと思われる。

旧(2014年6月)

2 教習車両等(p.18)
(1) 備付け自動車等 (中略) また、身体障害者用教習車両についても整備を促すこと。

新(2017年3月)

2 教習車両等(p.18)
(1) 備付け自動車等
 また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)第5条に規定される合理的な配慮を行うため、必要な環境の整備に努めなければならないとされていることも踏まえ、身体障害者の教習に使用できる車両や取り付け部品についても整備を促すこと。

 また、同席した池内さおり衆議院議員(日本共産党)が28日の内閣委員会でも質問し、警察庁交通局長からの正式答弁に加えて、福祉用の改造車両・取り付け部品を紹介した日本福祉車輌協会のパンフレットについて教習所・県警でも活用する旨が回答された。
 11月4日には元国家公安委員長の松原仁衆議院議員(民進党東京都連会長)と面談。元国家公安委員長の立場から、「警察庁にここまで答弁させたのであれば現場も動くはずだ」とのコメントを得た。
 他にも面談した自民党議員の秘書からは「最終目標は、教習所は障がい者を受け入れるのが当たり前という社会的な共通認識まで持っていくこと。そのための環境整備は決して難しいことではないはず。ぜひ頑張って欲しいし、できる範囲で協力したい」といった言葉も寄せられている。
 与野党問わず関心の高いテーマであり、今後の動きが注される。

移動格差の解消から心のバリアフリーを

 2006年の障がい者権利条約締結以降、批准した諸外国では次々と支援策を打ち出し、欧米では教習所やレンタカー業者において改造車や取り付け器具が常備された。公共交通機関も日常的に利用され、障がい者の社会参加が進んでいる。
 一方の日本は、条約の求める10年以内の国内法整備の期限が迫ってようやく差別解消法の施行にこぎつけた。ノンステップバスや障がい者用トイレなど、ハコモノのバリアフリー化は進んでいるが、障がい者に対する社会的な意識改革については道半ばである。

(『東京保険医新聞』2016年11月15日号掲載)