【主張】南スーダン派遣に反対する理由

公開日 2017年01月25日

 南スーダンはアフリカ大陸中央部の新興国である。イスラム教国スーダンから、キリスト教部族が独立してつくられた。この地域は、アフリカにおいて石油埋蔵量がとくに多いことが知られ、利権をめぐった争いが起きやすくなっている。周辺国を含めた、平和的な話し合いが必要な地域である。現在のところ、人口が1位の大統領派部族と、2位の副大統領派部族が主導権をめぐって争っている。

 本来、戦闘の防止を任務としてきた国連のPKO活動は現在、国連自らが武力を行使する「武力介入」型になっている。一方、南スーダンPKOに参加している陸上自衛隊には、安保法制により「駆けつけ警護」等の任務が与えられた。南スーダンでは2016年7月、首都ジュバで270人が犠牲となる内戦があり、大統領派が国連部隊を含め国連職員やNGO職員を執拗に攻撃している。内戦状態にある現地の状況を考えると、日本が政府軍と闘う可能性もある。

 目を中東に転ずればロシアの支援を受けたリビア政府軍が、市民を虐殺している。部外者は内戦の戦火を拡大するべきではなく、平和的な話し合いを促進することが正しい道だろう。

 軍事医学における戦闘ストレス反応とは、兵士が陥るさまざまな心理的障害である。第一次世界大戦では、砲撃や長期間の戦闘による心的外傷反応が観察され、戦争神経症(war neurosis)と呼ばれた。第二次世界大戦においては戦闘疲労(combat fatigue)と呼ばれたが、戦闘の期間に応じて全ての兵士がこのような反応を示すので、個人の資質の問題ではないことが明らかである。朝鮮戦争では、戦闘ストレス反応の後遺症に注目がうつされた。1980年代にはベトナム戦争からの帰還兵が、除隊後に深刻な心理的障害を示して、心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder,PTSD)として注目された。

 兵士がひとたび戦争に赴けば、心身ともに健全に帰還する保証はない。戦死や外見的な損傷を免れたとしても、恐怖をともなう戦闘の体験は人間性を深く傷つけ、高次脳機能障害、外傷性脳障害(TBI)、PTSDなどを来すことになる。

 200万人に及ぶイラク・アフガン帰還兵の10~20%、約30万人がいまでもPTSDの治療を受けている。イラク・アフガンにおける米兵の死者数は、2014年までの13年間で6,800人であるが、2013年の1年で、帰還兵の自殺が約8千人に及んでいることは、何を物語るのだろうか。戦死者の家族はもちろん、帰還兵を迎えた家族も、自分たちが失ったものに気付き、後悔し、苦しんでいる。

 大切な家族の永遠の不在、生涯続く介護の負担、PTSDによる家庭内暴力、自殺企図への恐怖、自殺既遂が生む失意と後悔、過去の栄光に見合わない生活苦などは、家庭崩壊や悲惨な余生をもたらすだろう。

 米軍と同様に日本の自衛隊にも、経済的な理由から参加する若者が多い。経済格差が命の格差となり、より豊かな人のための犠牲になるならば、看過ごせない。東京保険医協会は生命に奉仕する医師の団体として、殺し殺される危険のある戦地に若者を送り出すことに反対し、紛争地域の人々の生命と生活を破壊する戦争に加わることを拒否し、すべての紛争を平和的に解決する努力を政府に求めたい。

(『東京保険医新聞』2017年1月25日号掲載)