「保健師助産師看護師法第三十七条の二第二項第一号に規定する特定行為及び同項第四号に規定する特定行為研修に関する省令案(仮称)」に関する意見

公開日 2015年02月14日

2015年2月14日

医政局看護課看護サービス推進室 御中

東京保険医協会 政策調査部
部長 須田 昭夫

 
【はじめに】 提案された制度下での看護師特定行為には反対です

東京保険医協会は都内の開業保険医約5,400人で構成する団体です。

ご提案の看護師の特定行為制度は、地域包括ケアシステムを形作る中で重要な制度と位置づけられています。地域包括ケア研究会(田中滋座長)の報告書(2010年3月)では、2025年における地域包括ケアの担い手として、医師を「在宅医療開始時の対応・指示」、「急変時の対応・指示」に限定する一方で、看護師は「病状観察」、「夜間を含む急変時の対応」、「看取り」となっています。

この役割分担の整理について、当協会は「医師不足対応」や「医療費の適正化」などを名目に、医師の役割を看護師に肩代わりさせた「安上がり医療」と考えます。他職種連携によるチーム医療は重要ですが、今回の看護師特定行為の枠組みはむしろチーム医療を萎縮させかねない内容をはらんでおり、反対です。下記の点について、制度の見直しを求めます。

【意見1】 医療事故等が起こった場合の責任の所在についてのルールが不十分

医療事故が起こった時、医師と看護師のどちらが責任を負うのかという問題について、医道審議会「保健師助産師看護師分科会看護師特定行為・研修部会」では、第2回部会資料「特定行為に係る看護師の研修制度における医師又は歯科医師と看護師の法的責任について」のなかで、「個別の事例に応じて司法判断により決められるものであり、一概にいえない」としています。このような整理の下で看護師に研修に係る特定行為を行わせることは、医師の側にしてみれば看護師にリスクを負わせることとなり、当該特定行為を行わせるのは困難です。

「特定行為研修に係る特定行為を手順書により行うための能力を既に有している」とある通り、当該行為はこれから行われていくものであるにもかかわらず、その能力を既に有している看護師がいるということであるから、現場では研修行為に係る特定行為によらずとも、包括的指示によって看護行為を行っている実態があると推察されます。「特定行為研修を受けた看護師が研修に係る特定行為を行う場合」と、「研修を受けずに現場の実態として包括的指示によって診療の補助を行っている場合」の2つのケースについて考えてみると、医療ミスが起こった際、前者では司法判断により医師・看護師双方に法的責任がかけられる可能性がありますが、後者の場合は今回の特定行為制度の枠外のものであり、包括的指示といえども医師が責任を負います。保健師助産師看護師法の中に特定行為を位置づけて制度化する以上、研修を受けて特定行為を行う場合には、両ケースにおいて差がなくてはならないし、むしろ前者のケースにおいて看護師の法的責任が免れる・軽減されるようなルールを整備すべきです。

【意見2】 特定行為研修のために現場の看護師が不足する懸念解消を

第1回部会では「特定行為を行うことができる看護師を“2けた万人”養成したい」旨の厚労省担当者の発言がありました。仮に、“2けた万人”の最大数である99万人を養成するとすれば、現在約110万人いる看護師のほとんどが、あるいは2025年の看護師目標数200万人をベースにしても約半分の看護師が特定行為研修を受けることになります。養成には共通科目315時間と区分ごとの研修時間が必要ですが、医療現場では看護師が圧倒的に不足しています。研修に時間をとられ、現場で看護師が一層不足することのないようにする必要があります。今回の省令案では、特定行為研修について一定の科目免除の措置が盛り込まれましたが、免除の対象者(既に病院等に勤務している看護師が含まれるのか)や、免除される時間数をお示しください。

加えて、特定行為が可能な看護師を具体的に何万人養成するつもりなのか、研修での科目免除を受ける人数は、研修を受ける人数の何割なのかなどを明示し、医療現場が看護師確保の面で不安を抱くことのないよう配慮を求めます。

意見募集の概要「Ⅱ(ⅲ)特定行為研修」中、表外注4および注5

  • (注4)既に履修した科目については、当該科目の履修の状況に応じ、共通科目にあってはその時間数の全部又は一部、区分別科目にあってはその時間数の一部を免除することができる。
  • (注5)指定研修機関は、特定行為研修に係る特定行為を手順書により行うための能力を有していると認める者について、区分別科目の時間数の一部を免除することができる。

【意見3】 診療報酬上の手当てがなされるべき

当該特定行為看護を導入するのであれば、当然のことながら、看護師の能力が向上していることはもちろん、医師の側でも看護師の能力を把握した上で適切な指示を行う必要があり、従来以上に高度な判断を必要とし、それらは診療報酬において評価されるべきです。研修に係る特定行為を行う場合の医師・看護師の能力に見合った診療報酬を求めます。

以上

保健師助産師看護師法第三十七条の二第二項第一号に規定する特定行為及び同項第四号に規定する特定行為研修に関する省令案(仮称)」に関する意見 [PDF:169KB]