保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【銀杏並木】言葉は人間生活のエキス

公開日 2017年05月25日

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 人はそれぞれに生まれ育った国土の伝統を無視して生きられない。そして、その伝統つまり文化、文明の核心を形成するのは言葉にほかならないことを、しかと自覚しなければならないのではないか。

 生活とは言葉そのものだと極論できるほど、人間の行為、行動と言葉とは深く一体化している。言葉はいわば人間生活を蒸留して得られたエキスである。

 若い時に欧米文化を憧憬して造詣を深めても年のとば口にさしかかると、日本文化や東洋文化に方向転換する知識人は少なくない。鴎外、漱石、荷風、小林秀雄がそのよい例である。

 ところで、この回帰の真因はなんだろうか。やはり言葉であろう。異国文化の背景をなす宗教をも含めた意味で言葉の問題だと思う。

 どれほど他国語に堪能であろうとも、その国土に生まれ育った者でないかぎり、言葉の壁は厳としてあったに違いなく、そこからくる隔靴掻痒の感が彼らを故郷に回帰させたのだと思う。

 ひるがえって考えれば、この隔靴掻痒の感はきわめて正常な神経、偽りのない感性によるもので、こうした素直な心情こそ、真の文化の基底となりうるのだ。

 一方で、戦前に大本営の走狗となっていたマスメディアが、現代において使用する言葉や思考の背景には、企業として営利優先の商業主義が間違えなく存在する。

 新聞社の現場記者や見出しを決定する整理部が、自社やスポンサーの利益のために商品として創ってきた政治的意図のあるキャンペーンやスローガンから大衆へと伝染した誤謬、造語、乱れた言葉は、豊饒な歴史が成熟させた文化が涵養したものからみれば品位が落ちるものである。

 これらは、伝統とそぐわないものとしてその普及を看過できない。前述の感性と日本の美意識、および、メディアリテラシーを具備した理性があれば当然のことである。(チッチ)

(『東京保険医新聞』2017年5月25日号掲載)

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