公開日 2017年10月06日
私が往診していたKさんは借地権が切れるのをきっかけに特別養護老人ホームに入所した。100歳を過ぎた今もホームの個室で編み物をしたりして「お迎え」を待っている。
在宅時は細網肉腫と認知症で大工だったご主人を、自分たちが建てた自宅で看取った。ご本人も僧帽弁膜症と心房細動があり、ご主人が亡くなった後も往診を継続していた。定期的なチェックで、血中ジゴキシン濃度が高くなったため、過量を心配してほんの少し減量した。
その後、どうも調子が悪いと訴えられ元の量に戻したところ体調は落ち着いた。腰や膝の痛みや下肢の浮腫は出没したが、過去の経験から上手に自分で薬を使っていた。
私が研修医の頃、病院は全国的にも早期に人工透析を導入していた。担当していた先輩は「医者の言うことを聞かない患者さんは長生きする」と言っていた。
原則的なことはふまえつつ、自分にとって心地良いことを積極的にみつける患者さんたちの知恵は、医者の指示に勝ると解釈している。元々医者に日常の細かな事まで指示はできない。
メディアでは、サプリや食材のみならず、多数の疾患についても放映されている。視聴者は自分の体を五感で判断しなくなり、頭(知識)で心配するようになったのではないかと感じている。
「おなかがゴロゴロいうのですが大丈夫ですか?」「ふらふらするからパーキンソンではないか」等々。健康や疾患管理についての原則はあるが、基本は自分の身体からの声を聴くことだろう。(サンバ)
(『東京保険医新聞』2017年9月25日号掲載)