【主張】保険者機能の強化を考える「国保の都道府県化と差し押さえ」

公開日 2017年10月12日

2018年度から国保の運営責任が都道府県に移管されるために、国保料の高騰が懸念されている。国保料は世帯所得と家族数に賦課されるため、負担感が大きい。区市町村は一般会計からの繰入金によって、負担感を緩和してきた。国保の都道府県化にあたって政府は3,400億円の交付金を与える方針だ。しかし国保料の負担感を緩和するには1兆円が必要だという全国知事会の要望に対しては、全く不十分な金額である。

国保は本来、「個人の納付に対して給付する」というような「保険原理」によるものではなく、「政府が最低限度の生活を保障する」という「社会保障原理」に基づくものである。多くのOECD加盟国では、医療がほとんど無償で提供されているうえに、育児手当、無償教育、生活保護、介護給付などの社会保障も、手厚く行われている。

国保には、約3,300万人が加入しているが、無職者(43.9%)が多く、被用者(34.4%)には75歳未満で職域保険に加入できない、非正規労働者が多い国保加入者の3割は65歳以上のために有病率が高く、加入者一人当たりの医療費は健保の2倍になる。しかも国保加入者1人当たりの年間平均所得は83万円しかなく、保険料の滞納が多く、滞納処分や差し押さえが広がっている。

東京では2014年度の国保料滞納世帯が60万7,224世帯(25.7%)であり、62自治体中の60自治体が滞納処分・差し押さえを実行し、2万1,502件、76億3,403万円が差し押さえられた(平均33.2万円)。

滞納者に対する処分には差し押さえ、保険証の取り上げ(短期被保険者証の発行、資格証明書の発行)がある。資格証明書は、受診時にいったん医療費の全額が必要なため、受診を抑制する非人道性が批判されているが、短期保険証とともに、納付相談の機会をふやして生活支援を行うことが目的だと説明されている。しかし、はじめから支払える保険料を設定し、きめ細かい生活相談を行い、必要な措置を行っていれば、保険証の取り上げに至ることはなく、差し押さえなどの必要もないはずである。

国保の都道府県化にあたっては、適正な運用のために「保険者機能の強化」が求められた。ところが東京都は国保財政を「健全化するため」全国に先駆けて、国保料の「差し押さえ件数」「差し押さえ割合」と保険証を取りあげて発行した資格証明書の数を区市町村に競わせて、「特別調整交付金」の大半にあたる40億円(2014年度)を与える制度を設けた。このため東京都は国保料の滞納処分による差し押さえが異常事態になっている。

東京都は被保険者数10万人以上の区市で、差し押さえを100件行うと1,000万円、300件で2,000万円、500件で4,000万円を、収納率向上の成績評価として交付金を与えている。差し押さえ件数を増やすために、残高が1,000円程度の通帳まで差し押さえたという話も聞かれる。

全国的にみても、差し押さえ件数に対して交付金を出したのは4都県のみで、差し押さえ割合と資格証明書発行割合に対して交付したのは、東京都しかない。保険者機能の強化をうたうなら、受診困難者をなくすなど、被保険者の健康と必要な医療の確保を最優先すべきである。保険者を医療費「適正化」に走らせる、「保険者機能の強化とインセンティブ」には問題がある。

(『東京保険医新聞』2017年10月5日号PR版掲載)

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