医療法と医師法の改定法案 国会提出へ

公開日 2018年03月30日

無床診療所数もコントロール、「医師偏在指標」を導入

政府は今国会(会期末6/20)に医療法と医師法の一括改定法案(以下、改定法案)を提出する方針を固めた(表1)。

表1_医療法と医師法の一括改定法案(主な内容)
(第59回社会保障審議会医療部会資料から協会が作成)

医師少数区域等で勤務した医師を評価する制度の創設
①医師少数区域等における一定期間の勤務経験を通じた地域医療への知見を有する医師を厚生労働大臣が評価・認定する制度を創設する
②当該認定を受けた医師を一定の病院等の管理者として評価する仕組みを創設する
都道府県における医師確保対策の実施体制の強化
①医療計画において、二次医療圏ごとに、新たに定める「医師偏在指標」を踏まえた医師の確保数の目標を含む「医師確保計画」を策定する
②都道府県は、「医師偏在指標」に基づいて、「医師少数区域」(仮称)又は「医師多数区域」(仮称)を定めることができることとする
③都道府県と大学医局等が必ず連携すること等を目的とした「地域医療対策協議会」の機能を強化する
④地域医療支援事務の内容として、キャリア形成プログラムの策定や、「医師少数区域」への医師の派遣等の事務を追加する
医師養成過程を通じた医師確保対策の充実
①都道府県の知事から大学に対して地域枠又は地元枠の創設又は増加を要請できることとする

②臨床研修病院の指定、研修医の募集定員の設定権限を国から都道府県へ移譲する
③都道府県知事は、厚生労働大臣が定める都道府県ごとの研修医の定員の範囲内で、毎年度、都道府県の区域内に所在する臨床研修病院ごとの研修医の定員を定める
④厚生労働大臣は、医師の研修機会確保のために特に必要があると認めるときは、研修を実施する日本専門医機構等に対し、当該研修の実施に関し、必要な措置の実施を要請できることとする。また、日本専門医機構等は、医師の研修に関する計画が医療提供体制に重要な影響を与える場合には、あらかじめ厚生労働大臣及び都道府県知事の意見を聴かなければならないこととする

地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応
①医療計画に、新たに外来医療に係る医療提供体制の確保に関する事項を記載する
②都道府県知事は、二次医療圏ごとに外来医療の提供体制に関する事項(地域の外来医療機能の状況や、救急医療体制構築、グループ診療の推進、医療設備・機器等の共同利用等の方針)について協議する場を設け、協議を行い、その結果を取りまとめて公表する
その他
地域医療構想の達成を図るための、医療機関の開設や増床に係る都道府県知事の権限の在り方を検討する
※施行期日/一部の規定を除き、2019年4月1日

国と都道府県の権限を強化

改定法案は、「医師偏在指標」を新たに導入し、二次医療圏ごとに医師の確保数の目標などを定めた「医師確保計画」を都道府県が策定するとした。また、「医師偏在指標」に基づいた「医師少数区域」、「医師多数区域」(仮称)を定め、医師偏在の度合いを指標によって可視化するとしている。

外来医療については、無床診療所の開設が都市部に偏っているため、「医師偏在指標」などの情報を新規開業者へ情報提供するとともに、二次医療圏ごとに外来医療に関する協議の場(地域医療構想調整会議を活用)を設け、地域ごとの方針を決定していくとしている。

現在、地域医療構想に基づく病床削減が全国で進められようとしている。改定法案は、都道府県が策定する医療計画に、新たに「外来医療に係る医療提供体制の確保」を盛り込むとしており、地域ごとに無床診療所の開設を制限していきたい意図が露骨に表れている。

自由開業医制度の見直しへ、 開業規制を検討

第59回社会保障審議会医療部会(1月24日開催)に厚労省が提出した資料には、「無床診療所の開業規制を行う場合の課題」(表2)が取り上げられ、地域間の医師偏在の解消を口実に、自由開業医制度そのものを見直す狙いがあることが鮮明になった。

医師養成と専門医認定過程に介入

新専門医制度において、日本専門医機構は厚労大臣と都道府県知事の意見を聴かなければならない仕組みが導入される。また、都道府県知事から大学に対して地域枠又は地元枠の創設又は増加を要請可能とし、都道府県の権限で医師養成数をコントロールできる仕組みも導入される。新専門医制度と日本専門医機構にはさまざまな批判が寄せられているが、改定法案では国と都道府県の管理の元で、医師養成と専門医の認定を行っていくことになる。

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改定法案は、都市部への医師集中など医師偏在の解消を理由に、国・都道府県主導で地域ごとに「医師の配置」をコントロールしようというのが狙いだ。しかし、医師が集中するという都市部でも外科・産科系の医師は不足し、病院医師は劣悪な労働環境で勤務を強いられ、過労死に追い込まれる状況は変わっていない。日本の人口1000人当り医師数は2・3人で、OECD加盟31カ国中28番( OECD Health Statistics 2015)であり、絶対的医師不足のなかで地域と標榜科での医師偏在が生じているのだ。

医師不足・医師偏在を解消するには、せめてOECD諸国並みの医師数を確保するとともに、「医療過誤」等に対する苛烈な刑事罰法の運用を改善すること、また、男女を問わず勤務医が安心して働ける労働環境を整備するには、病院経営の改善が不可欠であり、診療報酬の底上げを含めた財政支援が必要だ。医療過疎地での医療確保には、公立・民間医療機関への人的・物的・財政的な公的支援を強化することが求められる。

少なくとも国都道府県が、公的医療費の抑制を前提に、地域医療を確保するための人・金・物を出し惜しみ、強権的に医師・医療機関の再配置を行おうとするのは、医療保障に対する責任放棄といわざるを得ないだろう。

◆表2_無床診療所の開業規制を行う場合の課題

表2_無床診療所の開業規制を行う場合の課題
(第59回社会保障審議会医療部会から協会が作成)
①自由開業制との関係 現行制度上、医師免許は開業免許と位置付けられている。憲法で保障された営業の自由との関係を整理する
②国民皆保険との関係 国民皆保険を採用するわが国において、保険上の制限も実質上の開業制限につながる
③雇入れ規制の必要性 開業規制を行うためには、雇入れ規制が必要だが、これは事実上困難である
④新規参入抑制による医療の質低下への懸念 新規参入がなくなれば、医療の質を改善・向上するインセンティブが低下する懸念がある
⑤駆け込み開設への懸念 病床規制を導入した際は、1984年〜1991年 までの間に23万8916床増床した

(『東京保険医新聞』2018年3月15日号掲載)