保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【視点】障害者福祉の介護保険化を考える―介護保険優先原則の適用は違法

公開日 2018年06月06日

障害者自立支援法違憲訴訟・岡山弁護団事務局長 呉 裕麻

1 はじめに

65歳になるや否や、それまで受け続けてきた障害福祉サービスを一切不支給とした岡山市の処分(以下、「本件不支給決定」という)に対して、岡山地裁は、被告である岡山市に対し、

(1)本件不支給決定の取り消し、
(2)従前の重度訪問介護サービスとして支給されていた249時間から、本件不支給決定後に原告が介護保険を申請した結果支給されるに至った重度訪問介護サービスとして支給されるようになった153時間を差し引きした96時間の自立支援給付の義務付けを認め、
(3)本件不支給決定は国賠法上も違法であるとして慰謝料100万円を認容し、
(4)本件不支給決定がなければ原告には介護保険の自己負担は生じなかったのだから、提訴までの間に原告が支出せざるを得なかった5カ月分の介護保険利用料7万5000円も被告である岡山市が負担すべき原告の損害と認めた。
 いわゆる65歳問題を定めた障害者自立支援法7条(現在の障害者総合支援法であり、本稿では以下「支援法」という)の解釈適当を巡る初めての判決であり、非常に重要な意義を持つ。

2 原告の障害等と岡山市による本件不支給決定

原告の浅田達雄さんは、生まれつき上下肢に重度の障害があり、飲み食い、排せつ、入浴など生きるために必要なあらゆることに援助が必要である。そのため、65歳になるまで支援法に基づき、1カ月あたり249時間の障害福祉サービスを受けて生活してきた。このような原告に対して、岡山市は、介護保険優先原則に基づき、障害福祉サービスをすべて打ち切ったのである。

3 障害者自立支援法と違憲訴訟、基本合意

障害者は、支援法に基づき障害福祉サービスを受けられるが、利用料の1割を負担しなくてはならず、これが重い負担となるという問題があった。また、障害者のための制度であるにもかかわらず、障害者の視点に立った制度設計がされていないという問題もあった。
そこで、支援法については、これらの問題点を巡り、全国で違憲訴訟が提起された。

その結果、2010年1月7日に原告団及び弁護団と国との間で、(1)地方税法上の非課税世帯に自己負担を生じさせないこと、(2)介護保険優先原則の廃止を検討することなどを内容とした基本合意が成立した。

かかる基本合意に基づき、(1)非課税世帯の自己負担はなくなった。しかし、(2)介護保険優先原則については、その後も改正はなく、非課税世帯では障害福祉サービスの利用者負担はなくなったにもかかわらず、65歳になると、介護保険利用部分につき利用料1割を求められるという問題(1割負担の復活)が生じた。

これは、支援法では非課税世帯の無償化を勝ち取ったにもかかわらず、65歳になったとたん、利用料負担が復活することを意味していた。そのため、全国の障害者から、自分が65歳になったとたんに利用料負担が復活することを不安視する声が上がっていた。

4 介護保険優先原則の問題点と岡山市の対応

介護保険優先原則は、そもそも障害福祉サービスと質的に異なる介護保険サービスを利用しなくてはならない上に、同サービス部分については利用料1割負担が生じるという問題点がある。そのため、多くの障害者は、従前からの支給の継続を希望する。

原告も、従前からの支給の継続を希望し、介護保険を申請しなかった。また、65歳になる数カ月前から、複数回に渡り、支援者と共に岡山市に従前通りの支給の継続を懇願し続けてきた。しかし、原告の対応にもかかわらず、岡山市は、形式的に支援法7条を解釈適用し、原告が介護保険を申請しなかった一事をもって、本件不支給決定をしたのである。

このような岡山市の対応に対して、原告は、「岡山市に死ねと言われたと感じた」と心情を述べている。これは、障害福祉サービスの支給がなければ生きていくこと自体が難しくなる原告の障害を思えば当然のことである。

しかも、そもそも岡山市は、長年に渡り原告に対して障害福祉サービスを支給してきたのであるから、これを不支給にすることがいかなる意味を持つかも十分に分かっていたはずである。

5 判決の意義

同条は、「自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護保険法の規定による介護給付…であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受けることができるときは政令で定める限度において…行わない」と規定している。

その解釈について、岡山地裁は「自立支援給付を受けていた者が、介護保険給付に係る申請を行わないまま、65歳到達後も継続して自立支援給付に係る申請をした場合において、当該利用者の生活状況や介護保険給付に係る申請を行わないままに自立支援給付に係る申請をするに至った経緯等を考慮し、他の利用者との公平の観点を加味してもなお自立支援給付を行わないことが不相当であるといえる場合には、自立支援法7条の『介護保険法の規定による介護給付であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受けることができるとき』には当たらない」と判示した。

同条は、65歳になった障害者が介護保険の申請をしない場合には、障害福祉サービスを打ち切ってよく、なおかつそうすべきことを求めているとの岡山市の解釈が誤っていることを明確にしたのである。
岡山地裁がこのような判断をするに至っては以下の事情が考慮されている。

まず判決は、原告が主張していた支援法7条の憲法判断には踏み込むことはせず(現在の日本の法制度の下では憲法判断をせずに結論が出せる事案では、憲法判断をせずに判決を言い渡すことが通常となっている)、支援法7条の解釈・適用についての判断を進めた。

そして、
(1)支援法と介護保険法は目的、対象者を異にしていて、給付の内容、財源等も異にしていること、
(2)支援法で非課税世帯の自己負担がなくなった経緯(前述の基本合意の締結とその後の改正等)、
(3)厚労省通達の存在や内容、
(4)厚労省による全国自治体に対する実態調査で、本件と同様のケースで障害福祉サービスの利用申請を却下する自治体は6.4%に過ぎなかったこと、
を根拠として上記のとおり結論を導いた。

その上で、原告の場合、介助がなければ日常生活を送ることが不可能な状況だったこと、不支給決定をした場合、原告がその生活を維持することは不可能な状態に陥ることは明らかだったこと、非課税世帯だった原告が1万5,000円の介護保険自己負担を負うことが経済上難しい状況だったことからすれば、原告が自立支援給付の継続を希望し、介護保険給付の申請を行わなかったことには理由があるとした。

そうすると、岡山市は、自立支援給付をしたうえで引き続き、介護保険の申請勧奨や具体的説明を行うべきだったのに、自立支援給付を一切行わない処分を行ったのだから、自立支援法7条の解釈・適用を誤っており、本件処分は違法とした。

6 まとめ

重度の障害を抱えながら5年近くに渡り訴訟をたたかってきた原告には相当の負担があったと思う。他方で、本件が原告だけの問題ではなく全国から支援が多く集まり、注目されたものであったことを思うと全面勝訴を勝ち取れたことの意義は本当に大きい。

しかし、残念なことに岡山市から控訴がされた。高裁でも原告の被害を踏まえた真っ当な判決を勝ち取りたい。


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呉 裕麻(おー・ゆうま)
岡山中庄架け橋法律事務所・代表弁護士

◆担当してきた大型集団事件
障害者自立支援法違憲訴訟・社会保険庁分限免職解雇撤回事件・出会い系サイト等被害対策弁護団、その他多数


 

(『東京保険医新聞』2018年6月5日号掲載)

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