第9回救急医療シンポジウム2018 地域の救急搬送を考える(7/21)

公開日 2018年08月24日

180825_01_救急医療シンポ(2018)


協会病院有床診部は7月21日、第9回救急医療シンポジウム「地域包括ケアとあるべき救急搬送の姿」を開催した。シンポジストは、①有賀徹氏(独立行政法人労働者健康安全機構理事長)、②益子邦洋氏(医療法人社団永生会・南多摩病院院長)、③行本理氏(都福祉保健局医療政策部救急災害医療課長)、④江原浩仁氏(東京消防庁救急部救急医務課長)の4氏。医師、看護師、ケアマネジャー、消防士等42人が参加し、救急医療と地域医療について意見を交わした。

地域包括ケアとあるべき救急搬送の姿

有賀氏は、二次医療圏外に救急搬送された患者が退院後に元の地域に戻れない問題があり、その解決のためには地域密着型病院がそれらの患者を受け入れる体制づくりが必要だとした。

病院救急車を使った地域高齢者搬送支援システムを機能させて、病院救急車が地域内協力病院に搬送することで、退院後も患者が元の地域社会に戻る仕組みが機能する。今後の医療の流れは、広域からの患者を対象とする急性期、広域からの患者を主に受け入れる地域包括期、長期に渡り医療と介護を一体的に提供する慢性期の3つの機能になる。急性期の段階で生活に戻る準備を始め、地域包括期で具体的な生活の準備をすることが必要だとし、急性期、地域包括期、慢性期でいかに円滑に患者を送ることができるかが肝要であり、救急搬送においては「搬送・入院から即生活へ」を目指すべきであるとした。

病院救急車を活用 八王子市の救急医療

益子氏からは、八王子在宅療養救急搬送支援事業として、病院救急車を利用した地域高齢者搬送システムについて報告があった。高齢者施設からの救急要請が激増している背景を受けて、2015年に病院救急車による施設入所者等の搬送事業を開始している。病院救急車の意義は、①高齢救急患者を住み慣れた地域で支える、②消防救急を支援し、負担の軽減を図ることであるとした。また、病院救急車の課題として、①高齢者施設からの搬送は補助の対象外であること、②病院救急車の受け入れは救急病院の救急搬送受入実績として算定ができないこと、③病院救急車による転院搬送の補助対象が自院からの搬送に限定されていること等を挙げ、これらの課題を早急に改善し、病院救急車の更なる活用促進を図る必要があると指摘した。

東京ルール事案は減少中

行本氏は、主に東京都保健医療計画のなかに位置づけられている救急医療について説明した。

医療計画のなかで「救急医療の東京ルール」の推進が位置づけられており、(I)救急患者の迅速な受け入れ、(Ⅱ)トリアージの実施、(Ⅲ)都民の理解と参画が東京ルールとして定められている。開始した2009年以降、受入困難事例件数は年々減少しており成果が出ている。また、2017年10月1日に施行された「消防機関が行う転院搬送の要請に関する要領」によれば、消防救急車を要請した場合、要請元医療機関の医師が原則同乗すること、また要請元医療機関が転院搬送依頼書の提出を求められることが、保健医療計画の「救急車の適正利用の推進」に明記されていることを説明した。

同乗は医師の判断

江原氏は、救急出場件数の推移を示し、2017年は1日平均出場件数2,151件だったのに対し、2018年7月18日の出場件数が3,036件と過去最多を更新したと報告した。2017年の救急搬送患者は65歳以上が51.8%と過半数を占め、さらに75歳以上が全搬送の37.6%を占めることが明らかになっている。搬送の半数以上は軽症が多いが、高齢者では中等症が多い。また、搬送理由は急病・一般負傷が増加する一方で交通事故が減少している特徴がある。また、東京ルールについては、導入後東京ルールの事案自体は減少しているものの、高齢者の事案割合が上昇している(グラフ)。

180825_01_救急搬送件数の推移②

医療機関の医師が救急車を要請した場合、医師の同乗が原則求められているが、これについて江原氏は「原則は同乗だが、同乗しないという医師の判断がある場合は、救急隊への明確な指示など、医師による患者の病状管理の下に救急隊に引渡していただきたい」と答えた。

フロアからは、在宅での看取りについて患者・家族から事前に同意を得ているものの、急変すると家族が救急車を呼び病院に運ばれてそこで亡くなるケースが多々ある。救急隊からかかりつけ医の有無について確認するなど、救急車で搬送する前に救急隊が何かできることはあるのではないかといった意見も出された。

(『東京保険医新聞』2018年8月25日号掲載)