保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【視点】医療法・医師法改正の問題点

公開日 2018年12月05日

東京保険医協会副会長 須田 昭夫

力づくの医師派遣で、失うものはないだろうか

地域医療に必要な医師を確保するためという、医療法・医師法改正案が2018年7月、衆議院で可決され、成立した。都道府県は日本専門医機構や大学等と連携して医師の配置を調整する権限を与えられ、「医師確保計画」をつくり、「地域医療対策協議会」を強化する「地域医療支援事務」を行うことになった。

具体的には、都道府県知事は医学部に対して、地域枠・地元出身者枠の設定を要請する。医学部入試には、試験点数以外に大学独自の基準があったが、行政枠を法律で定められた。医学教育と医療における行政の支配が、格段に強化された。知事は臨床研修病院を指定し、募集定員を設定する権限も国から移譲された。そして国および都道府県は、日本専門医機構の専門医研修について、地域医療の観点から発言することになった。

さらに知事は、外来医療関係者が二次医療圏ごとに連携し、外来医療(夜間救急体制、グループ診療、医療設備の共同利用など)を協議する場を設ける。その他、知事は地域医療構想を達成するために、医療機関の開設や増床を審査する重要な権限を与えられた。

「医師少数区域」の医療を支援する病院、その他の厚生労働省令で定める病院の開設者は、「医師少数区域」での勤務経験を評価して、厚生労働大臣が認定した医師であることが条件になる。そのような管理者が都道府県知事の許可を受けた場合には、区域内の他の病院等を管理できることにする。これほど重大な改定が、短時間の一括審議で、強行採決されたことには、驚くほかない。

法案可決に先立つ15日、参院厚生労働委員会は4人の参考人質疑を行った。日医の今村聡氏は法案に好意的な意見を述べるとともに、医学部入学定員の縮小を求めた。医師が過労死する現実を見ていないようだ。産業医科大学教授の松田晋哉氏は、(医師を公費で育成する)フランスでは、国が関与して医師の適正配置をおこなっていることを述べて、法案に賛成の態度を示した。相馬市長の立谷清秀氏は、「医療の専門家が医学の見地だけで専門医を認定するのはおかしい、地域医療に責任を負うのは行政であり、われわれ市町村長である」と述べた。地域医療を理由にして、医学教育を変えようとする見解である。

全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、日本の医師の長時間労働は特殊であり、医師の過労死の元凶であるとともに、医療安全にも問題がある現状を訴えた。医師不足を解決することは、入試の不公平をなくすことにもつながり、男女平等社会の視点をもつ見解といえるだろう。

新専門医制度が強引に発足して既成事実化されたが、政府が意図することの全貌が見えてきた。新専門医制度の資格を取りやすくした大学病院に医師を集中させ、医療過疎地に派遣しようとしているのだ。日本は高齢の医師まで入れても、人口当たりの医師数はOECD諸国の3分の2しかいない。第一線を担う医師の過重労働には目を覆うものがある。過疎地の医療を疎かにすることはできず、医師不足を根本的に解決することが待たれるが、過疎地を作り出す政治を変える必要もある。研修中の若い医師を指導者の少ない過疎地に、行政が力ずくで派遣することによって、失うものはないだろうか。

(『東京保険医新聞』2018年9月15日号掲載)

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