【主張】都立病院の独法化は誤り

公開日 2019年01月07日

 都立病院経営委員会は2018年、東京都立病院をすべて独立行政法人化(独法化)することを提言した。都立病院の診療に関する収支は均衡が取れているが、毎年約400億円を都の一般会計から繰り入れていることの解消を求めた。しかしこの費用は災害対策や行政的医療など、東京都が都民に対して義務を持つ事業の費用であり、独法化で解決するのは筋違いである。

 すでに独法化された病院では、経費節減のための人員削減、給与削減、各種業務の外注化、非正規職員化が行われた。独法化されれば医師や看護師ら、現職約7千人が非公務員となる。増収のためには保険外の患者負担(紹介状なしの初診料、セカンドオピニオン診療費、文書料、差額ベッド料、分娩費など)の増額、不採算部門の切り捨て、必要な入院期間の短縮などが行われている。

 経営委員会は都立8病院のあるべき姿として、効率的な行政的医療、高水準の医療、地域医療への貢献、の3項目を要求し、これらを実現するためには「柔軟な人事や、実績を反映させた給与設定などができる」地方独立行政法人が、「ふさわしい経営形態」だとしている。総務省が2008年12月に発出した公立病院改革ガイドラインに従った方針であるが、都議会には採算重視は公共医療の切り捨てにつながるとして、独法化に反対する意見もある。

 都立病院の責務の中で、わかりやすいのは災害医療だろう。近年さまざまな災害が起こっているが、災害時には拠点となる病院が欠かせない。災害拠点病院には高度な耐震性能、非常用電源、給水能力が求められる。災害時には多数の被災者を収容する能力、対応する人材、各種の備蓄も必要である。また被災地(国)に派遣するチームへの協力も、公的病院であってこそ、できることである。

 救急医療や過疎地の医療も、不採算を理由に切り捨てられない。周産期医療、難病対策、障害者・高齢者への対応など、「行政的医療」と呼ばれる不採算医療の実施はとくに重要だ。感染症対策、ワクチン行政への協力も欠かせない。

 都立病院には高度な技術や設備を必要とする検査や治療をおこなって、地域の医療レベルを向上させる任務もある。自治体内の医療関係者の指導・教育や、住民の教育を行うことも必要である。このように、都立病院が担ってきた活動には行政の力が必要であり、採算性が最優先される医療法人にできることではない。

 独法化されて、病院の運営に都議会が関与できなくなれば行政との連携が失われて、地域医療連携などに公共性の追求が失われる。不採算の診療科が切り捨てられれば、受診困難が生まれることは明らかだ。また年間400億円の費用であるが、東京都の予算は2016年、一般会計歳入が約7兆円、全会計では約14兆円であり、福祉大国スウェーデンの国家予算を上回り、3兆円かけてオリンピックを開催してもなお、3兆円の貯金がある。

 夕張市をはじめとする地方自治体の経済破綻は、政府が公的病院を独法化させる動機となっている。

 1990年代初頭のバブル崩壊のとき、政府は経済刺激策として、地方自治体の公共事業投資を奨励した。ところが政府は費用を補てんするどころか、01年度から07年度の間に、地方交付税を年間6・2兆円も圧縮した。この差額が07年には累積200兆円にもなり、今日の地方自治体債務の真の原因となっている。

 しかし、もともと地方交付税を受け取らない、裕福な東京都には無関係の話である。政府が消費税と同額の法人減税を続けながら福祉を切り捨てている方針に、従う必要はない。

(『東京保険医新聞』2018年11月5日号掲載)

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