【主張】水道事業民営化は問題山積

公開日 2019年01月23日

水道法改正案が強行採決された。公的事業を民営化すれば、効率が改善してサービスもよくなるというのは、公正な競争から生まれる現象である。ところが、水道のような独占事業を民営化しても競争は生まれず、利益追求に走る危険が大きい。公共事業であれば不正利得を監視されるが、民間企業になれば、談合や暴利が不当であっても、不正ではなくなる。広く世界を見わたせば、水道事業の民営化は失敗の連続である。

最も有名な例はボリビアである。南米の最貧国ボリビアは、世界銀行からの融資をうける条件として、第3の大都市コチャバンバの水道事業を1999年、米国のベクテル社に委譲した。ところが、細菌が混入するほど水質が悪化した上に料金が4倍になり、滞納者への給水は停止された。水道を利用できない人たちには感染症が蔓延し、多数の死者が出た。

民営化の翌年1月、コチャバンバの市民は「水と生活を守る市民連合」をつくり、「水は神からの贈り物であり、商品ではない」として抗議行動をおこなった。戒厳令下で9人が殺害され、数十人が逮捕され、約100人が重傷を負った。市民は、最終的には再公営化を勝ち取ったが、政府は当時のお金で約25億円の違約金と、膨大な工事代金を要求された。

フィリピンのマニラ市も、1997年8月米国のベクテル社らと民営化の契約を結んだ。その結果、水道料金は4~5倍に上昇し、低所得者層の住む地域には給水されず、水を分け与えることさえも禁止された。「貧乏人は水を飲むな」という世界がつくられたのだ。

人間が生きてゆくには、「水」と「空気」を欠かせないが、世界市場で「水」を支配している「水メジャー」の2強はフランスの企業で、スエズ・エンバイロメント(フランス、中国、アルゼンチンに進出)とヴェオリア・エンバイロメント(中国、メキシコ、ドイツに進出)である。2社は世界各地で水道料金の大幅な値上げをして、反対運動を呼び起こしている。本国のフランス・パリ市では、1985年から2009年までの24年間に、水道料金が265%上昇したが、約30%の収益が企業の内部留保になっているという。

2013年4月、麻生太郎財務大臣兼副総理は、米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で講演し、「水道の民営化」を約束した。民営化は竹中平蔵氏が勧める「コンセッション方式」で、施設の所有権を自治体に残したまま、運営を民間事業者が行う方法である。つまり事業者は設備投資なしに、利益を手にすることができる。経営が困難になれば企業は簡単に撤退できるので、あとの始末は大変なことになるだろう。国会で審議する前に、国外でこのような約束をすることは、安倍政権の特徴の一つである。

安倍政権は水道事業民営化を進めようとしているが、世界は「再公営化」の機運に向かっている。2014年の調査では、35カ国の少なくとも180の自治体が再公営化を決断している。その理由の多くは事業者が営利に走って料金を引き上げたこと、給水ニーズに応えられないこと、水質の悪化などである。水のように、命に直結する社会的インフラの独占的民営化は不道徳であり、断固として異議を唱えたい。

(『東京保険医新聞』2019年1月25日号掲載)

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