【視点】国際的な原発産業は凋落の一途

公開日 2019年03月14日


国際環境NGO FoE Japan(深草 亜悠美)

日立が英・原発輸出凍結を  正式決定

1月17日、日立製作所は臨時取締役会で、同社が英国・ウェールズで進めていた原発建設事業の凍結を決定した。日立の完全子会社ホライズン・ニュークリア・パワー社が、ウェールズ北部のアングルシー島に原発を2基建設する予定であった。

日立製作所は予てから、①プロジェクト遂行に必要な許認可の取得②採算性の確保③事業のオフバランス化(事業への出資比率を下げ連結子会社から外す)を、事業継続の条件として掲げていた。今回、凍結が決定されたのはこれらの条件が整わなかったためである。

FoE Japanは数年前から、事業地であるウェールズ・アングルシー島で原発事業に反対する住民団体と交流し、現地調査や、日本政府に対する申し入れ、情報発信などを行ってきた。2018年5月には現地住民らを日本に招聘し、経済産業省などの省庁や、融資の可能性が取り沙汰されていた国際協力銀行などに申し入れや署名提出を行った。

そもそも東電福島原発事故を起こした日本が、事故処理や被害者支援もままならないまま原発を輸出することは社会的にも倫理的にも許されないだろう。放射性廃棄物の問題や被曝問題の解決には程遠く、原発そのものを使うべきではないと考える。しかし、このプロジェクトには他にも様々な固有の問題があった。

なかでも事業費3兆円という巨額のコストを誰が負担するのかという点は大きな問題だった。当初、英国政府や日本の政府系機関などが事業に直接出資を行い、政府保証のついた融資を行う計画が報道されていた。日立製作所の中西宏明氏(現経団連会長)も「両政府のコミットメントがなければ、事業は進められないというのは共通の理解」と述べており、一民間企業だけでは負えないリスクを日英国民に転嫁するという構想だった。

さらに、事業の採算性を確保するため、日立は英国側に高価な買取価格を求めていた。英国で現在建設中の新規原発の買取価格は92・5ポンド/MWhで、電力市場価格はおよそ40~50ポンド/MWhを推移。つまり、新規原発の価格は市場価格の約2倍で、これには英国民の批判の声も大きかった。一方、洋上風力の価格は60ポンド/MWh台に低下している。日立にとって、高い買取価格が採算性に直結するが、高い買取価格を英国が提示するということは、英国の電力消費者の負担が増えることに他ならない。英国側は75ポンド以上は提示できないとし、今後交渉を続ける場合でも、それ以上の価格は提示できないと明言している。

アングルシー島は英国でも経済的に貧しい地域

FoE Japanは、昨年10月、一昨年の11月に現地を訪問している。原発立地のアングルシー島には2015年に稼働を停止した古い原発施設が残っており、現在廃炉作業中だ。アングルシー島は英国の中でも経済的に貧しい地域である。若者やアングルシーの議会は新たな原発事業は雇用を生むという理由で歓迎している一方、万が一事故が起きた時の影響や、核廃棄物などの問題、コストなどを巡って、数十年にも及び反対活動を続けている住民らがいた(一番初めにこの計画が持ち上がったのは1980年代のことだった)。

昨年5月に日本を訪れたウェールズ現地住民で、原発に反対しているメイ・トモズ氏は「子ども達に負の遺産を残したくない」と語る。またロブ・イドリース氏も「原子力は時代遅れの技術。なぜ日立や日本はもっと別の技術を輸出しないのか」と話す。同じく昨年5月に日本を訪れたリンダ・ロジャース氏は福島を訪れ「この悲劇を2度と繰り返してはいけない。今も事故は続いている」と語った。

アングルシー島は人口7万人の小さな島で、観光業や農業が主な収入源。それらは原発事故が起きればもっとも影響を受けるセクターでもある。また、島と本土の間には2本しか橋がなく通常も朝は出勤ラッシュがあり、万が一事故が起きた時の避難は困難だ。島には多くの環境保護区域や景観保護区域がある。EUの法律で保護が命じられているキョクアジサシの生息地も原発サイトの中に存在している。

実は、英国で原子力事業が中断されるのはこれが初めてではない。東芝も英国でムーアサイド原発建設を計画していたが、東芝の事実上の破綻により、事業会社を清算せざるを得なくなった。トルコで計画中の三菱重工の原発建設計画からは伊藤忠商事が撤退した。

世界の自然エネルギー     原子力の2倍以上に拡大

「世界原子力産業ステータスレポート2018」によると、2017年の原発に対する投資額は160億米ドル。一方、自然エネルギーには2800億米ドルが投資された。設備容量で比べると、自然エネルギーは157GW分が新たに稼働し、一方原発は3・3GWの増加にとどまった。発電電力量では原子力の2倍以上に拡大している(図1、2)。

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 投資家や電力会社にとっては政府の支援がない限り、原子力発電は非常にリスクの大きいプロジェクトになる。全世界のエネルギー投資の動向を分析した2 つのレポートによると、原子力発電に対する新規投資は少なくとも2004 年以降に500 億ドルを超えたことは一度もない。一方で大型水力を除く自然エネルギーの新規投資は2010 年から大幅に拡大して、毎年2,000~3,000 億ドル以上にのぼっている。2015 年には3230 億ドルに達した。その後2016 年と2017 年に自然エネルギーの投資額が減少したのは、風力発電と太陽光発電のコストが低下して、より少ない投資で発電設備を建設できるようになったことが主な理由である。  
『競争力を失う原子力発電 』(公益財団法人 自然エネルギー財団)から協会が作成

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原子力発電の電力量は2006年をピークに2012年まで減少。その後2017 年まで増加し、約1600 億kWh増えたが、1500 億kWh は中国の増加である。(同上)

英国でも世界でも自然エネルギーの価格が安くなっている。かたや原子力発電は、建設に一基1兆円以上かかるようになってきている。三菱重工によるトルコでの原発計画も当初2兆円と見積もっていた事業費が4兆円に膨れ上がっている。

東電福島事故が収束しないなか、日本が海外に輸出すべきなのは原発などではなく、原発事故の過酷さ、被害者のおかれている状況、人や環境を中心にすえた新たなエネルギー社会であるべきだ。FoE Japanは今後も原発や化石燃料に頼らないエネルギー政策、原発事故被害者支援など幅広く活動を行っていく。

FoE Japan 地球規模での環境問題に取り組む国際環境NGO。世界74カ国に200万人のサポーターを有する Friends of the Earth International のメンバー団体として日本では1980年から活動を続けている。(FoE Japanホームページから)

(『東京保険医新聞』2019年3月5日号掲載)