【主張】新専門医制度と開業制限を考える

公開日 2019年05月21日

 大学病院には多数の診療科がそろっていて百貨店のようだが、一診療科当たりの病床数はあまり大きくできず、一人の医師が受け持つ患者数は少ない。一方、市中病院は、診療科の数や大きさを絞って特色を出し、専門店のような診療ができる。受診者数が多く、診療水準が大学を超える市中病院も珍しくない。若い医師にとって、多くの症例を経験できる市中病院や専門病院の魅力は大きい。

 2004年に新医師臨床研修制度が発足し、医学部を卒業した研修医は、研修先を自由に選べるようになった。多数の研修医が市中病院を選び、大学病院に残る研修医が激減した。若い医師たちの低賃金・長時間労働で支えられてきた大学病院は運営が立ち行かなくなり、地方に派遣していた医師を大学に呼び戻した。地方に残った医師が過労のため離職すると、地方病院の医師はさらに不足した。

 大学病院が担ってきた医師派遣機能が損なわれ、地方病院の医師不足が顕在化したといわれる。日本の医師数は約32万人であるが、人口当たりの医師数はOECD加盟国中の最少で、あと10万人足りないと言われている。しかも日本は国民皆保険体制のために、受診率が高い。だが、医療費を抑制したい厚労省は、医師増員にきわめて慎重だ。

 しかし表面的に見れば、医師が研修先を自由に選んだことが地方の医師不足を招いたように映り、厚労省もそのような見方であった。医学会を支配している大学と厚労省は、若い医師を再び大学に呼び戻す計画をたて、2018年、新専門医制度が発足した。国家試験に合格した医師たちの約9割が、新専門医制度の専攻医となった。専門医の取得と維持のために、医師の基幹病院勤務が延長することが予測され、地方の医師不足が強まる恐れもある。

 2018年7月、「医療法及び医師法の一部を改正する法律」が公布され、医療における都道府県知事の裁量権が強化された。医療過疎地がある都道府県の知事は、大学医学部の入試に地域枠・地元出身者枠を求める権限を明記された。さらに都道府県知事は新専門医機構および大学と共同して、専攻医が研修する病院の選定に関与すると同時に、医療機関の開設許可や病床数の増減にも関与することになった。

 2018年12月、厚労省は「医療従事者の需給に関する検討会」の分科会で、翌年3月までに、二次医療圏ごとに「外来医師多数区域」「外来医師少数区域」を設定する考えを示した。この区域で開業する医師は、医療機能の偏在を解消するために、在宅医療、初期救急医療、学校医などの「地域で不足する医療」を担うように求められる。医師の偏在を管理的な手法で解消する計画であり、労働環境の不備をそのまま新規開業医に押し付け、職業選択の自由を侵害する恐れがある。

 在宅医療が抱える諸問題(複雑な施設要件、年中無休・24時間対応、不合理な診療報酬など)の改善には手をつけず、新規開業の医師を規制することは、思いがけない副作用を招く恐れもある。さいたま市は人口100万人の大都市であるが、深夜帯の小児救急医療は1カ所の病院に集約している。一律の規制ではなく、地域の機能を結び付けて生かす方法もある。

(『東京保険医新聞』2019年4月5日号掲載)

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