【視点】マイナンバーカード、保険証利用の罠

公開日 2019年05月23日

東京保険医協会副会長 吉田 章

 マイナンバーカードの保険証利用を可能にする保険証のオンライン資格確認システムの導入と、このシステムに基づいた各種医療情報の集積・利用の計画が進められています。

Ⅰ オンライン資格確認システムの概要

 このシステムの概要は以下の通りです。

①現在は世帯単位の保険証番号を個人単位化する。

②保険者組合は保険証番号他の視覚情報とマイナンバーを1対1でセットしてデータセンターに登録する。

③医療機関とデータセンターをオンラインで結ぶ。

④医療機関の窓口では、マイナンバーカード又は保険証番号を使用しオンラインでデータセンターと交信し資格情報を確認する(資料1)。

 これに対して医療団体他から反対の声が上がっています。

 そもそも2013年に番号法(マイナンバー法)が成立した際、医療情報は特に機微性が高い情報が含まれ、漏洩等が生じた場合には個人のプライバシーに重大な損害を与えることになることから、別の法律を作り取り扱いを検討する、すなわちこの法律の下ではマイナンバーを医療情報には使わないことになっていたはずです。このことは忘れられたのでしょうか。

Ⅱ 「マイナンバーは使わない」は本当か

 こうした批判に対し、「オンライン資格確認システムはマイナンバーを使うのではなく、マイナンバーカードの電子証明書機能を使うだけなので問題はない」とする意見も聞かれます。

 果たして本当にそうでしょうか。以下に検証したいと思います。

①前述のとおり、保険 者組合がデータセンターに保険者番号他の資格情報を登録する際にマイナンバーと1対1のセットにすることになっています。このシステムはマイナンバーの使用から始まっているのです。

②同システムがもたらすメリットとして「マイナンバーカードの資格確認対応の医療機関・薬局では、保険者が変わってもマイナンバーカードのみで受診等が可能(保険証を持参する必要がない)」(資料2)が挙げられています。しかし、なぜそれが可能になるのでしょうか。保険者が変われば保険証番号も変わりますが、マイナンバーカードに保険者情報は入っていません。

 カードの電子証明書の詳細は不明な点も多いのですが、マイナンバーにつながるカギのような機能を持つものと思われます。医療機関の窓口でそのカギを読み込み、データセンターは対応するマイナンバーに紐付けされた資格情報を返送してくるものと考えられます。保険者番号等の資格情報がマイナンバーと紐付けされているからこそ生じる「メリット」なのです。

③さらに別のメリットとして「保険者における高額療養費の限度額適用認定証の発行等を大幅に削減」(資料2)が挙げられています。

 これが可能になるということは、保険者により管理されている保険資格情報と自治体に管理されている住民税情報が連結されることを意味します。

 なぜ連結できるのでしょうか。それぞれがマイナンバーに紐付けされる、いわばマイナンバーが間を取り持つ形になっているためと考えられます。

 以上から、マイナンバーカードの保険証利用はマイナンバーを使わないとは言えず、むしろマイナンバーそのものの上に成り立つ仕組みであるといえます。

Ⅲ 医療現場の混乱

 窓口では、紛失、取り違え等様々な混乱が予想されますが、その一つについて考えてみます。

 オンライン資格確認システムにはオンラインレセプト請求システム用の回線が使われる予定ですが、まだオンライン請求を行っていない医療機関が全体の6割近くに上ります。

 もし、オンライン資格確認の設備がない医療機関を、マイナンバーカードしか持たない患者さんが受診した場合、どうなるのでしょうか。当然保険資格が確認できないので、保険証を提示されない場合と同様、自費診療扱いにして、後日保険証を持ってきてもらうことになると考えられますが、それで患者さんは納得するでしょうか。

 受診時に保険証を提示するのはルールであり、提示しないときは患者さんの落ち度ですから、当日自費扱い、後日精算も納得できるでしょう。しかし保険証として使えるはずのマイナンバーカードを提示したにもかかわらず、医療機関の都合で同様の扱いを受けることになるのです。納得がいかない患者とトラブルになることも危惧されます。

Ⅳ 医療情報の集積・連結・利用のインフラとして

 政府は保険証番号、すなわちそれに紐付けされたマイナンバーを利用し、特定健診の結果他各種医療情報を集積、連結利用することを計画しています。驚くことに、オンライン資格確認システムを通して電子カルテやレセコンから直接情報を集め、データベース化することも考えられています(資料3)。

 個人の診療内容を含むほぼすべての医療情報がマイナンバーに結びつけられることが構想されているわけです。IT立国をめざす一環としての策でしょうが、このような形での個人情報の利用は、国民の理解を得た上で進められているのでしょうか。

 医療情報は個人にとって最重要プライバシーのひとつです。漏洩、目的外利用等がおこったとき個人の受ける被害は計り知れません。マイナンバーの保険証利用とそれに続く医療情報の利用は、国民に対し、広く周知し、検討を加える必要があると考えます。

資料1:オンライン資格確認等について(厚生労働省 2018年5月)
資料2:オンライン資格確認等システムの検討状況(厚生労働省 2018年12月)
資料3:医療等分野の情報連携基盤となる全国的なネットワークやサービスの構築に向けた工程表(厚生労働省 2018年7月)

(『東京保険医新聞』2019年4月15日号掲載)