保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

公立・公的病院の再編・統合に抗議する

公開日 2019年11月15日

公立・公的病院の再編・統合に抗議する

政策調査部長 須田 昭夫

 

 全国の公立または公的な病院1455のうちの424病院について、厚労省は9月26日、「再編・統合の議論が必要な病院」として、実名を公表した。①がん、心疾患、脳卒中、救急、小児、周産期の6領域、②災害、へき地、研修・派遣機能の3領域、合計9領域について、人口当たりの診療実績が下位3分の1にあたる、あるいは車で20分以内に①の6領域で競合する病院があるときに、再編・統合の検討が必要であるとした。東京都では10病院の名前が挙げられたが、いずれも地域の重要な役割を担っている病院であり、不意打ちの発表には、広範な反発が広がっている。

 とくに都立神経病院は、1980年に65床で開設されてから1985年には296床となり、2002年には東京都指定難病医療拠点病院に認定され、神経難病の診療実績は国内最高レベルの病院である。なかでも難治性てんかんやALSの治療にはユニークな活躍があり、全国からも患者が集まる病院である。恣意的な基準から再編・統合を迫るのは、厚労省のするべきことではない。

 政府は「国土活性化」や「地域医療構想」を掲げて、医療の過疎・過密を解消する方針である。しかし、コンパクトシティと称して都市機能を集約すれば、周辺地域は衰退する。そして、地域医療構想は病床削減が目的であることが明言された。医療機関がなくなれば人が去り、過疎化がさらに進行する。

 そもそも、地域医療の水準を保つために必要な施設・人材を確保して、良質な医療を行うことが公立・公的病院の使命であった。さらに、保険診療では採算を取りにくい、災害、救急、難病、障害、周産期の医療など、行政的医療と呼ばれる部分を担当してきた。

 東京都では、都立病院が年間総額400億円の赤字だと批判されている。しかし東京都が提出した資料によれば、通常診療の収支には問題がなく、400億円はすべて、行政的医療のための支出であると言えた。

 424病院についても、病院が立地する地域での重要な役割を果たしているとして、続々と抗議の声が上がっている。10月4日には、全国知事会・全国市長会・全国町村会などの地方3団体が、「住民は不安に思っている。リストを返上してほしい」と、政府に申し入れて協議をおこなった。

 地方自治体が管轄する病床について、発言権のない厚労省が424もの病院に、実名を挙げて再編・統合を求めたのは、甚だしい越権行為である。病院は車で20分以内に1つあれば良いという発言は、病院の個性を理解していない。受診者は病院を使い分けている。

 無責任な再編・統合に対する抗議を受けた厚労省は、「議論の活性化を促すために公表した。強制ではなく、決めるのはあくまでも地域」「再編・統合と言っただけで、削減とは言っていない」などと、発言の火消しに追われている。

 東京都老人医療センターは2009年4月、東京都立養育院附属病院が民営化され、はじめて民営化された都立病院となった。民営化によって変わったことを見てみよう。無料だった個室の25%は、最高2万6000円に有料化された。駐車場も有料化された。高齢者医療に重要なリハビリ科の病床は、利益が少ないために200床減らされた。職員の給与も減らされて、入職5年目からは、昇格しないかぎりわずかな昇給に止まる。医師と看護師の離職率が上昇している。

 東京都からの補助金は、最初の3年間で2分の1になり、さらに減額の方向であるが、病院には剰余金が増えている。結局、患者サービスの切り捨て、部屋代などの患者負担増、職員給与の圧縮などによって、運営事業者は利益を上げている。今後は、経済的理由による受診の遅れ、職員の病院離れ、行政的医療の切り捨て、などが懸念されている。

 医療費の過酷な削減が進められているが、超高齢社会であるにもかかわらず、日本はGDPあたりの医療費が格安であり、人口当たりの医療従事者数は非常に少ない。病床数が抑制されているために、多くの病院は経営難である。医療費をさらに削減すれば、医療体制が崩壊する恐れもある。2019年10月、消費税は10%になったが、2020年4月に予定される診療報酬改定は、医科診療所にとってマイナス2・5%を超える削減になりそうだ。消費税を受け取っていない医療機関にとっては、辛いことである。

 日本は病床数が多くても、高齢者が多くても、総医療費が格安であることに注目するべきだ。患者を病院に集中させることによって、少ない職員数でも効率よく診療できているのではないか。病床数を減らして患者を在宅化させれば、医療従事者の数は絶対的に不足する。

 現に都市部では、在宅での孤独死が増加している。在宅医療の先駆者となった岡山県尾道市が経験したように、患者を在宅化させると、福祉の総費用が倍加するというのが、世界の常識だ。強引な病床数の削減は、見直すべきである。

20191115 4面表

(『東京保険医新聞』2019年11月15日号掲載)