【パブリックコメント】「新たな病院運営改革ビジョン(素案)~大都市東京を医療で支え続けるために~」への意見

公開日 2020年03月03日

 2019年12月3日の都議会で小池百合子都知事は突如、都立・公社病院の独立行政法人化に向けた準備を開始する方針を表明した。病院有床診部は1月30日、東京都が発表した新たな病院運営改革ビジョン(素案)に対して、東京都病院経営本部宛にパブリックコメントを提出した。

 都立・公社病院は、災害医療、救急医療や過疎地の医療などを担っており、独法化により不採算部門の切り捨て等が懸念されている。

 

「新たな病院運営改革ビジョン(素案)~大都市東京を医療で支え続けるために~」への意見
 

2020年1月30日
東京保険医協会
病院有床診部長 細田 悟
 

  東京都病院経営本部は2019年12月25日、新たな病院運営改革ビジョン(素案)を発表した。案によれば、都立・公社病院の経営形態で「地方独立行政法人が最もふさわしい」とし、8カ所の都立病院と6カ所の公社病院の独立行政法人化を盛り込んだ。さらに、これら14病院を地方独立行政法人東京都病院機構(仮称)という1つの機構で運営する方針を打ち出した。東京保険医協会は以下の理由から、都立・公社病院の独立行政法人化(以下、独法化)に反対する。

1 毎年400億円の一般会計からの繰入は必要な医療費である。

 東京都の一般会計から都立病院の赤字の穴埋めに400億円繰り入れされているとの「400億円赤字説」がマスコミ等で流布されているが、そもそも一般会計からの「繰入金」は都財政の運営において特別なことではなく、会計間のやりとり(繰入金・繰出金)は通常の財政政策である。この繰入金の費用は災害医療や救急医療、精神科、難病等のいわゆる行政的医療のための費用であり、東京都が都民に対して義務を持つ事業の費用である。現に今回の新型コロナウイルス肺炎の対応では、公社、都立病院が受け入れ先となり、都民や国民の健康と安全の砦として機能していることがそのことを十分に物語っている。一般会計からの繰入を解消するという名目で独法化を進めるのはそもそも筋違いである。

2 独法化によって患者や医療従事者に多大な負担がかかる。

 独法化されれば、増収のために保険外の患者負担の増額、不採算部門の切り捨て等が行われる。例えば、独立行政法人「東京都健康長寿医療センター」は、旧老人医療センター時代には原則差額ベッドの徴収はなかったが、独法化されて以後、病室140室(25%)が個室とされた。最高で26,000円になり、さらに有料個室を使用する場合、入院時に保証金10万円を現金で支払うとされ、患者に多大な負担がかかることになった。これでは患者の受診抑制が進むことは必至だ。また、独法化によって経費節減のための人員削減、給与削減、各種業務の外注化、非正規職員化が行われ、医療従事者は不安定な雇用条件に晒される。そのような医療提供体制では、チーム医療の団結を損ない、結果として都民への医療の質を下げることになる。

3 小池都知事による突然の独法化の表明は独断的である。

 東京都はもともと都立病院改革の中期計画の中で、都立・公立病院の経営形態についてはメリット・デメリットを検証し2023年度までに方向性を示すことにしていた。しかし小池都知事は2019年12月3日の都議会第4回定例会の所信表明で、独法化に向けた準備を開始する方針を突如表明した。検討が十分になされないまま一方的に独法化を進めようとするやり方は独断的であり、断じて容認できることではない。都立・公社病院のあり方については、都民、医療従事者等と広く議論をして決めるべきであり、小池都知事が断定的に決めるものではない。知事は独法化の発言を撤回すべきだ。

4 都民の貴重な財産を売却するな。

 欧米諸国から病院経営に株式会社を参入させるよう強い要望が相次いでおり、公社経営に株式会社の経営参入、資本参入を認めれば、結果として破格の価格で株式会社等に譲渡することにもなりかねない。明治時代以降、東京府民、東京都民の血税が注ぎ込まれてきた貴重な財産を安価で払い下げる事態等とならないよう、配当を目的とする法人、また、その疑いが濃厚で東京都が現在新規の医療機関開設を認めていない法人等に対し、将来にわたって、都立病院、公社病院の経営を任せず、これら病院を売却、譲渡等できない方策を厳格に定める必要がある。

以上