公開日 2020年02月08日
都立・公社病院の「独法化」は医療の後退につながる
都立病院の充実を求める連絡会 代表委員 氏家 祥夫
都立、公社14病院の「独法化」を突然発表
2019年9月26日に厚労省は、全国の公立・公的病院424病院を「再編・統合の議論が必要」として実名で公表しました。東京でも難病患者の治療を行う都立神経病院、島で唯一の国保町立八丈病院、区民の要望で建設された区立台東病院など、都民のいのちを守るためになくてはならない10病院がリストアップされています。
この動きを加速させるかのように、2019年12月3日、第4回定例都議会の冒頭で小池知事は、「14の都立病院と保健医療公社病院の地方独立行政法人への移行の準備を開始する」と表明し、「新たな病院運営改革ビジョン(素案)」を、3月中に決定する意向を明らかにしました。
地方独立行政法人化(以下「独法化」)により、都立8院(5118床)、公社6院(2193床)の14病院で、従事職員1万人(都7000人、公社2600人)が行っている医療はどう変わるのでしょうか。
行政責任で支える医療、地域の医療要望に対応する医療、多くの患者に手を差しのべる医療から、公立病院の縮小、利用者の自己負担増で「経営優先」の運営手法へと変化していくことが危惧されているのです。
都立病院にふさわしくない地方独立行政法人化
①民営化への第一歩患者の負担増に
「独法化」すると、病院の経営は「効率性」と「独立採算」を強く求められます。
既に「独法化」された板橋区の「健康長寿医療センター」では、病床が711床から550床に大幅削減され、有料個室は病床の25%(141床)を占めるようになりました。最高2万6千円の差額ベッド代が求められ、そこに入院する際には10万円の保証金が必要となるなど、患者・利用者の負担増に跳ね返ってています。
特別室料、分娩料、診断書料などの患者自己負担(保険給付されない)は、事実上都議会の審議なしに変えられてしまいます。都内の多くの医療機関が、診療報酬不足分を健診事業などと合わせ、自費分の収益でようやく運営している実態があります。
②「行政的医療」の後退に
災害・感染症医療、高度な精神科医療、特殊救急医療、島しょ医療など民間では採算が取れない医療=「行政的医療」は都立病院の重要な役割です。そのために、一般会計からの繰入金約400億円が支出されています。都の予算の0・5%で患者のいのちを支えているのです。
一般マスコミは「400億円の赤字解消に『独法化』が必要」と論じていますが、東京都は12月の定例都議会で、繰入金について「赤字とは認識していない」と認めています。
「独法化」された国立病院機構では、一般会計から運営費交付金が年々削減、診療科や病棟の閉鎖が行われ、病床数も5千床以上削減されました。健康長寿医療センターでも同じように独法化を境に運営費交付金が削減されています。
一般会計からの運営費交付金の削減が進めば、経営は不安定な状況に追い込まれ、都民医療の後退につながります。
③柔軟な運営は現行制度でも可能
都立病院の「独法化」の理由として、現行の体制では予算・人事・給与に「制度的な制約」があり柔軟に経営できないことが理由にあげられています。
しかし、年度途中に補正予算を組むことも、「繰越明許」制度など年度をまたぐ運営も可能です。人員についても、「保留定数」があり、年度途中での増員もできます。さらに医療関係の採用も、病院経営本部が「11職種」の独自採用権限を人事委員会から委任されています。
現行の都直営でも柔軟な運営が確保されているにもかかわらず、都は十分な運用をしてきませんでした。運営の柔軟性は、「独法化」の理由にはなりません。
④地域医療連携や災害対応が困難に
都立病院が「独法化」されると、7000人の職員は公務員の身分が剥奪されます。
公務員は「全体の奉仕者」としての責務を負っています。大量の医師・看護師・医療従事者が民間人化することで、地域医療の要としての役割や、感染症・災害対応などの、東京都の行政責任が低下することが危惧されます。
⑤議会の監督機能、チェック機能の後退
「独法化」すると、都民や都議会の監督機能・チェック機能が極端に縮小されます。都民の声が届かなくなり、都民のための病院から遠くなっていきます。
⑥全国の公的病院の再編統合に道を開く
公社病院は公的医療機関に含まれます。現在は厚労省は公的医療機関の「独法化」は打ち出しておらず、今回の表明は小池都知事が独自に判断したものですが、今後の全国的な公的病院の「独法化」・再編・民営化の先鞭を付けるものと見なければなりません。
都民のいのちと福祉を第一にする都政へ
小池都政は、都民のいのちと福祉の増進をはかるべき地方自治体の責務を放棄しようとしています。
私たち都立病院の充実を求める連絡会は、都立・公社病院の「独法化」に反対し、全国で抗議の声が起こっている424の公立・公的病院「再編・統合」の撤回を求めています。
12月に都立病院、保健医療公社を所管する東京都病院経営本部へ、また1月21日に小池都知事への要請を行い、梶山副知事への要請を実施しました。
私たちは、抗議声明を発表し、記者会見、会派要請、緊急宣伝を行うなど、多くの医療団体・都民団体と共同し、広範な都民と共に運動を進めています。7月5日投票の東京都知事選の大きな争点に位置付けて取り組む決意です。
(『東京保険医新聞』2020年2月5日号掲載)