[寄稿]新興・再興感染症のリスクが高まった―地球温暖化がもたらす危険―

公開日 2020年05月13日

新興・再興感染症のリスクが高まった―地球温暖化がもたらす危険―

須田 昭夫(新宿区・須田クリニック)

 

 

 世界保健機関(WHO)は2月中旬、今回のCOVID―19の自然宿主は蝙蝠(コウモリ)である可能性が高いと発表した。蝙蝠を食べたり、蝙蝠と接触した動物からの感染も、考えられている。

 蝙蝠は、2010年代のエボラ出血熱、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルスなどの自然宿主としても知られている。地球上には感染症のリスクが高まっている。

 生物の生態にも注目が必要だ。1990年代のエルニーニョ現象によって気温が上昇し、インドネシアに生息するキクガシラコウモリの生息域がマレーシアまで拡大した。呼吸器症状、消化器症状や日本脳炎様の症状を発症させる新種のウイルス(ニパウイルスと命名)により、100人以上が死亡した。蝙蝠の唾液が感染源になるという。ウイルスは、シンガポールやインドにも拡散した。

 2016年夏、シベリアのヤマル半島は35度を超す高温となったが、20数人の住民が炭疽を発症し、少年1人が死亡、約2500頭のトナカイが死亡した。永久凍土の融解によって露出したトナカイの死骸から、炭疽菌が漏れ出たことが原因であった。

 このように、永久凍土や南極大陸の氷に閉じ込められた病原菌が、再活動する可能性は十分にある。

 アメリカの研究者たちは2015年、アラスカやチベット高原の地下50メートルの氷をとり出したところ、未知のウイルスが28グループ発見されたことを報告した。ウイルスは環境によっては、百万年くらい生き残るという意見がある。

 カムチャツカ地方の凍土中には、天然痘で死亡した多数のロシア人が、そのまま埋葬されていることも、一つの不安材料になる。

 蚊が媒介する感染症には、マラリア、デング熱、ジカ熱、西ナイル熱、チクングニア熱、黄熱、ほか多数あり、多くは熱帯や亜熱帯の病気として知られてきた。

 しかし、地球温暖化の影響で蚊の生息域は変化している。とくに危険なヒトスジシマカやハマダラカの生息域が、温帯地方まで広がり、人口の多い地中海地方や北東ヨーロッパにまで拡大しているという。

 さまざまな病気を媒介するハマダラカは、世界におよそ460種が知られているが、そのうちのおよそ100種、とくに30~40種がマラリアをヒトに媒介している。日本に広く分布するヒトスジシマカもマラリアを始めとして、熱帯の様々な感染症を媒介する。

 マラリアは、19世紀には、オランダやスウェーデンなど北欧諸国でも流行していたが、いまや再び持ち込まれようとしている。

 最近新しく認知され、局地的にあるいは国際的に公衆衛生上の問題となる感染症を「新興感染症」と言う。また、かつて主要な疾患であって、制圧されたと考えられていた疾患が再び脚光を浴びるようになったものを、「再興感染症」と呼んでいる。厳格な定義はないが、以下のような疾患が含まれる。平素からの対応策を考えておくことが必要だ。

【新興感染症】
SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、ウエストナイル熱、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラ出血熱、クリプトスポリジウム症、クリミア・コンゴ出血熱、後天性免疫不全症候群(HIV感染症)、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、腸管出血性大腸菌感染症、ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)感染症、マールブルグ熱、ラッサ熱

【代表的な再興感染症】
狂犬病、デング熱、ジカ熱(ジカウイルス感染症)、マラリア、ペスト、ジフテリア、結核、サルモネラ感染症、コレラ、黄熱、リーシュマニア症、エキノコックス症

(『東京保険医新聞』2020年4月25日号掲載)