保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

[視点]新型コロナウイルス感染の広がりを把握しない行政の不作為

公開日 2020年06月02日

新型コロナウイルス感染の広がりを把握しない行政の不作為

                     iwata

はたがやメンタルクリニック 岩田 俊 

新型コロナ蔓延は隣国のようには収まらない

 隣国、韓国では一定の成果を上げている新型コロナ感染症の制圧ですが、わが国では未だ感染の蔓延がとどまりそうにありません。その被害は医療関係者を直撃し、東京では4月21日時点で感染者数の14%にあたる454人が感染し、医療崩壊が危惧されています。

 ニューヨークを中心に感染爆発をきたしているアメリカ合衆国の大使館にさえ「アメリカ人は無期限に日本に居住するのでないならば、直ちに帰国すべきである」と勧告される始末です。「幅広く検査をしないという日本政府の方針によって、新型コロナウイルスの有病率を正確に把握することが困難になっているから」と。

 東京では、地域の医師たちの努力によってコロナ感染症の診療・検査の「センター」が、やっと各所に作られるようになりました。「交代で出張してでも、外で検査しよう」と臨床医が話していた時から3カ月も経っていました。現在の治療体制の大幅な遅れを取り戻すためには、大胆な巻き返しが求められています。

 そこで、わが国の感染対策が何故これほどの体たらくをきたしたか、今の時点で考えておくことが、次の躓きを防ぐためにぜひ必要です。

機会を活かせなかった日本の感染症対策

 いつの時代にも、人は未知の病原体によって起きる病気に恐怖し、早くにその患者を見つけ、手当の方法を経験の中から見つけ出そうとしてきました。現代にあっても、「現実生活における新型コロナ感染症の具体的予防策は誰も知らない」のです。どのような時、どのように伝染るのか、多彩な症状と、その経過、そして重症化した場合の問題点等、臨床経過の詳しいことは、中国の例、帰国者の例など知見を集めながらの医療なのです。

 だから、患者、無症状の感染者、その接触者と臨床家とが協力しあって、事実を見極め、予防方法を工夫し、治療経過の中で有効な薬も見つけ出そうと世界中の国々が取り組んできているのです。

 発端になった中国では、初期数週間の間違いを克服し、総力を挙げて病原体の遺伝子配列を世界に公表し、驚異的な速度で彼らなりの治療体制を構築して、抑制方法のひとつを示しました。韓国の制圧方法も、2003年のSARS流行の時の教訓を踏まえて、幅広い検査と情報公開をして、国民の協力を求めての取り組みでした。

 わが国が採った、PCR検査を多くしない、地域の患者を日頃診療していない保健所がトリアージする等といったことは、最初から無理な方針だったのです。

 わが国には、この未知の感染症への対処を組み立てなおす機会が何回かありました。

 1月だけで1万8千人の旅行客を大流行の武漢から受け入れたのに、国内ではイタリアのような感染爆発が起きず、わが国の文化や生活習慣が「なにか」流行を遅らせられるいい条件を持っていると想像させました。ハグも握手もしない習慣か、靴を脱ぎ上がる家屋か、豊富な水を使った手洗いや風呂や皿洗いの清潔さなのか。BCGや家屋内の風通しまで。きちんとデータを取ってその条件を見つければ、実験的なウイルス感染実験など以上の貢献を回復期の世界にできたでしょう。

 クルーズ船の集団3千人を密閉培養状態にせず希望者全員を上陸させ、選手村を借り上げるかホテルでも使って、予防生活のどの行為が感染を引き起こすのか観察させてもらうべきでした。船舶の空調や配管などを明らかにすればエアロゾール感染の割合等も明瞭になり、結果として712名の感染者や13名の死亡者は防げた可能性もあります。

PCR検査を抑制しては感染の広がりは掴めない

 それらのすべてで重要な点は、幅広く行うPCR検査による情報の共有によって、感染の広がりを患者住民とともに考え、協力を得て方針を立てることをおいて他にありません。

 散発例でも、感染し自暴自棄になった患者の事例において、指名しそばに座らせた店員にではなく、開店まで寝そべっていた場所に後から座って化粧をした店員にうつした等、不幸な出来事でも、避けるべき行為を示しており、一般の人々のこうした映像を集積する力が、自発的な感染予防を編み出したでしょう。

 3月にWHOが「検査、検査、検査だ」と疑わしい例全てに検査と、陽性者の徹底隔離を強調して呼びかけたことは、現場臨床家と不安を抱える国民にとっては、当然のことでした。

行政の不作為の責任は重い

 わが国の医療機関は重症化危険群の患者を集約的に抱え込む中で、政権の長年にわたる医療費削減のために、急性期感染症に対する知識能力はあっても、施設も余力も乏しい状態です。このことは監督官庁である保健所も厚生労働省も当然熟知しており、現場医療機関の要求が当初から、①陽性者の発見、②軽症者の隔離施設の用意、③治療のための消耗品配備、④重症感染症病棟の設置を急ぐことであることも知っていたのです。

 現代医療では、新しい感染症であっても、病原体の特定とウイルス量の類推、抗体産生の経過が、病日との関係で、その患者の合併症や予後を予測させ、安定した治療経過をつくりだします。患者の安心感は、そうした医療を身近にもっていることによって作り出されます。症状が乏しくとも、ウイルス排出のある陽性者は、従来の治療施設から厳然と区分けされなければ、治療行為は遂行できません。医療機関の感染は、軽症、無症状の感染者がわからずに来院することによって起こっているのです。

 また、PCR陽性からの回復者や、今後出てくる抗体検査での抗体保有者が、支えあいの社会をつくっていくうえで、大きな役割を果たしてくれる可能性もあります。

 そうした意味で、厚労省がツイッター上で行った、PCR検査への不正確な攻撃など、建設的な方針を論議するうえで、論外の行動というべきです。感染の広がりを正確に把握しようとしてこなかった厚労省や自治体の不作為の責任は重いものがあります。

感染症対策を国民と共に進めるために

 いま必要なのは、政権に忖度する人間ではなく、「どのレベルまでまだわかっていないのか」、「類似の経験から、どういう姿勢で臨むことが安全といえるのか」を納得できるように提言する「専門」家です。そうした専門家を選ぶことの大切さと難しさを、わが国は2011年の福島原発の事故で学んだはずでした。原発が事故を起こした時、被害の広がり、逃げ方、対処方法等々を、地域住民が理解しやすいように研究し、発信できる専門家がめだたなかったからです。

 つぶさな情報共有と誰もが参加できる新型コロナ感染症への医療体制をつくらなければなりません。

 新型コロナウイルス感染症流行からの4カ月で世界が知ったことは、こうした疫病が、都市化と国際交流を基盤とした温暖化社会に対して出現したものであり、1、2カ月間で暴風雨のように行き過ぎるものでなく、世界流行は繰り返すだろうということです。粘膜表面の免疫がなくなる半年後や、冷暖房が必要で密閉しやすい気候になれば、ウイルスの遺伝子変化がなくとも二波三波が予想されます。

 末端からの意見を集約できる体制の構築、誰一人見捨てない支えあえる社会の指導体制が求められています。

(『東京保険医新聞』2020年5月5・15日合併号掲載)