保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

[寄稿]パンデミックに強い地球にしよう

公開日 2020年07月01日

パンデミックに強い地球にしよう

須田 昭夫(新宿区・須田クリニック)

 

 

 

 7都府県に緊急事態宣言が発せられた4月7日以降、自粛要請に応じた中小事業者、団体は、経験したことのない深刻な売上の減少に苦しんでいます。日本の企業の99%以上は中小企業です。休業して売上がなくても、家賃などの固定費として、最低でも40万円前後の経費が必要です。また、パート・アルバイト労働者は収入を絶たれやすく、たちまち窮状に陥ります。先が見えない不安と経営難が深刻です。

◆当初補正予算の不足
 安倍晋三首相は、新型コロナウイルス感染症に対して108兆円を用意したと言っていましたが、その多くは経済政策や貸付金でした。当初の補正予算は16・8兆円だけでしたが、基本的に「休業への補償という考え方はありません」と言うように、給付や貸付金の支給範囲は狭く、煩雑な手続きが必要で、即効性がないことを批判されました。公明党までもが強硬に反発したために急遽、国民一人当たり10万円の給付(総額12・8兆円)が採用されて、補正予算の総額は25・6兆円になりました。

◆補正予算の増額と組み換え
 持続化給付金は売上が半分以下となった事業者に、事業収入の減少額に応じて、100または200万円を1回限り給付するものでした。しかし、手続きが煩雑で、野党がこぞって要求した家賃の補償はなく、事業を存続させようとする意欲に欠けていました。従業員に対する雇用調整助成金(8330億円)の支給上限も低く、雇用を維持するには力不足でした。医療体制を支援するという1・8兆円は、経済対策に1兆円、マスク、ワクチン、薬の開発に2274億円を使い、医療に直接使う「緊急包括支援交付金」は1490億円に過ぎず、一桁足りないと批判されました。

 協会の緊急アンケート調査によれば、コロナ感染症のために医療機関を受診する患者さんが激減し、3分の1の施設で収入が50%以下になりました。収入がなくてもテナント料や人件費は出ていきますので、診療所は存続の危機に立たされています。これは診療費で解決できる範囲を超えていますので、地域医療維持のための補助金が必要です。

 国民の生活を維持するための「休業要請は補償とセット」、という声に対して、政府が「補償という考え方はない」と一貫して拒否し続けたことは、特記されます。さらに補正予算には、コロナ感染症が終息した後の消費や旅行などの割引クーポン等に、刺激策として2・7兆円、予備費として1・5兆円など、即効性のない予算が組み込まれています。

◆第2次補正予算
 新型コロナウイルス感染症に対応する補正予算が、全く不十分だという野党の主張に、対応せざるを得なくなった政府与党は、第2次補正予算案の検討に入りました。

 5月7日、自民、公明両党は、新型コロナウイルス感染症のために収入が減少して、テナント料の支払いが困難になった中小企業や個人事業者の支援について、野党案を一部受け入れました。全業種を対象にして、収入が前年同月比で2分の1になるか、3カ月合計で30%以上落ち込んだ中小事業者には、1カ月あたり最大50万円、個人事業者には最大25万円を、「特別家賃支援給付金」として助成します。家賃支援のほか、従業員に対する雇用調整助成金の増額、学生への給付金なども検討します。しかし給付されるまでの時間が長い上に、給付金は非課税になりません。アルバイトの減収のため、学生の4人に1人が休学や退学を考えているという状況から、文科省は困窮学生約43万人に、一人10万円の給付を決定しましたが、給付対象が少なく、迅速さに欠けています。野党は大学院、大学、短大、専門学校の授業料の半額補助をおこなうと共に、バイト収入が激減した学生には最大20万円を支給するなど、学生等支援法案を5月11日に国会提出しました。

◆とにかく遅くて誠意がない
 安倍首相の言葉を辿ってみましょう。3月28日「歯を食いしばって、この試練を耐え抜くよう頑張っていくという決意も伺うことができました」4月7日「歯を食いしばって頑張っておられる皆さんこそ、日本の底力です」4月30日「歯を食いしばって頑張っておられる皆さんへのこうした支援を1日も早くお届をし、事業や雇用を必ずや守る」など、歯を食いしばらせたままです。アベノマスクを受け取った人はごく少数です。給付金や貸付金を受け取った人はほとんどいません。診療所は休業要請対象外のために、収入が激減しても各種協力金の対象外です。医療の公共性、医療機関は社会資本であるという考え方に立てば、今後も予想される新興再興感染症のパンデミックには、対応策を求めていかなければなりません。コロナウイルス感染症対応病院の、1カ月当たり平均2億円の減収は、行政が負担するべきですが、等閑視されています。保健所や公立・公的病院の削減・縮小は、コロナウイルスへの対応を鈍らせましたので、今後は拡充・強化に転換するべきです。

◆レジリエンスのある社会を目指そう
 新型コロナウイルスのパンデミックから、われわれは何かを学んで残すことができます。そもそも地球環境の変化は、新興再興感染症のパンデミックが起きやすい環境を作っていたのです。元の社会に戻るだけではなく、より柔軟な対策を持った社会を目指すべきです。環境の破壊は、ただちに修正しなければなりません。そしてパンデミックに対応できる、強靭な社会の仕組みを作らなければなりません。各種感染症の発生を、早期に報告し合ってパンデミックに至らせない体制が重要です。感染症の震源地となる開発途上国への支援が、出発点になります。迅速な対応手順をあらかじめ作っておく必要があります。何よりも、人類がお互いに協力できる地球にしなければなりません。今回の新型コロナウイルスについて、米国は中国の責任を言い立てていますが、人類の2分の1が感染して4000万人を超える死者を出し、史上最悪のパンデミックとなったスペイン風邪は、米国の兵舎から発生し、第1次世界大戦の軍事行動によって世界中に蔓延しました。軍事行動がパンデミックを引き起こした例は枚挙にいとまがありません。人間の移動がパンデミックを引き起こすならば、軍事行動ほど無駄な人間の移動はありません。争いをなくして、国際協力を語る地球になることが、急がれます。

(『東京保険医新聞』2020年5月25日号掲載)